第185話 適正規模

百姓雑話

梅雨のまっ最中である。今年の関東地方は空梅雨ぎみであったが、先月下旬から、やっと梅雨らしくなった。エルニーニョ現象が起きているので、たぶん今年の梅雨明けは相当遅れそうである。

この時期の悩みの種は病気と雑草である。どちらも高温多湿の状況が大好きで、先月下旬から露地トマトに「疫病」という厄介な病気が発生し始めた。この病原体は胞子を飛散するカビのため、放置すると、あっという間に全滅する。農薬以外では、確実な対策がない。梅雨明けまで、ひたすら発病した部位を取り除くしかない。気の遠くなるような作業である。農薬を使わない露地栽培ではトマトがもっとも難しい。

また、雑草が畑やその周囲のいたるところでグングン伸びる。トラクターで耕せる所は極力トラクターで対策する。しかし、トラクターが使用できない場所は、草刈り機で刈ったり、手で取り除いたりする。草対策は、いくらやったところで何ら収益を生まないため、面倒くささが先に立ち、つい後手に回る。農薬を使わない農業は、病気や害虫、雑草に苦しめられ、日本では大面積を耕作するのがかなり難しい。

ところで、日本の成人男性の身長はだいたい170cmくらいだろう。ではなぜ、170cmくらいで身長の伸びが止まるのだろうか。学者の中には、この問いに答えられる方もおられるかもしれないが、まともに答えられる一般人はほぼ皆無であろう。あえてこじつければ、「人間にとってその身長が適正規模だから」とか、「DNAにある遺伝情報がそうなっているから」とか、何か釈然としない答えしか思い浮かばない。「その身長がなぜ適正か」という理由が思いつかないからである。

農業においても、適正な耕作規模があるはずである。しかし、「その規模がなぜ適正か」と問われても、身長と同じように、明確な理由を探すのは大変である。私も、農業を始めてから10年以上たっても、適正規模がわからず失敗を繰り返してきた。

例えば、耕作規模を決める際、少なくても次のようなことを考慮すべきであろう。それらは、営農の目的、栽培方法、販売方法、作付けする農作物の種類、地域の地形や気候、機械化の度合い、営農従事者の数、構成、能力、経済状況などである。

これらの要因を総合的に勘案し耕作規模を決めるべきである。営農の目的には、販売を目的にすることもあれば、趣味や自給を目的にすることもある。両者は適正規模が格段に異なる。栽培方法においては、露地栽培かハウス栽培かによって、大幅な差が出る。あるいは、農薬や化学肥料を使うか使わない栽培方法かによっても、適正規模は結果的に違ってくる。営利を目的として営農する場合でも、販売方法が適正規模に影響してくる。市場やJAに出荷する場合と宅配などで直売する場合を比べれば、前者は単価が安いので、当然、適正規模を大きくしなければ利益が出にくい。さらに、栽培するものによっても、適正規模は相当異なる。一般的に、実のなる果菜類よりも葉菜や根菜類は大面積を要する。地形や気候、機械化の度合いや営農従事者の数などは言うまでもない。

では、現実はどうであろうか。私の知る限り、ほとんどの農民は、どちらかと言えば、単純な理由で規模を決めている。手持ちの農地と営農従事者に関する要因が優先され、他の要因はあまり考慮されない。この決定方法は、もちろん現実的ではあるが、将来の発展性を乏しくしやすい。これがまさに、日本の農業が衰退した原因の一つである。

(文責:鴇田 三芳)