第63話 子どもでもわかる健康経済学(3)

百姓雑話

3月1日、関東地方でも春一番が吹き荒れた。スギ花粉がいっきに舞い上がり、また地獄のような日々が始まった。薬を飲んでも一向にくしゃみは止まらず、心臓に負担がかかる。目は開けていられないほど痛い。呼吸困難と睡眠不足のために、頭は一日中ぼーっとしたままである。この季節になると、健康経済学にもとづくスギ花粉対策事業が国家レベルで実施されることを願うばかりである。

さて、健康経済学で扱うべき事象はたくさんある。その中から、身近な具体例をいくつか挙げてみたい。

まず、上で挙げたスギ花粉症の問題がある。厚生労働省のデータによると、患者数は国民の16%に及び、年々増え続けているという。今や国民病である。大雑把ではあるが、その経済的ロスを試算してみたい。この時期になると、私の場合は仕事の効率が30%くらい落ちる。患う期間を2か月とすると、年間換算で5%の労働ロスとなる。国民の16%が同じように5%のロスを生むとすると、GDPの0.8%がロスとなる。つまり、金額に換算すると4兆円を上回ることになる。その他にも、医療費や通院時間のロス、マスクなどの対策グッズの購入、苦痛、ぼーっとすることによる事故やミスなども加えれば、5兆円くらいの経済的ロスになるだろう。スギ花粉症によって医療機関や製薬会社などが潤う分を差し引いても、数兆円の経済的ロスを毎年確実に生んでいることになる。

40年近くスギ花粉症に悩まされてきた私は、税金を使ってでも、全国のスギを花粉の出ないスギに植えかえて欲しいと痛切に願っている。「人口が減っていくのだから、新規の道路や鉄道などはもういらない。健康が欲しい」と願っているのは私だけだろうか。健康経済学の観点から、全国のスギを植えかえる費用と現在の経済的ロスを比べると、どちらが高くつくか考えようではないか。たぶん私は、前者の方が安くつくような気がする。くわえて、スギを植えかえれば、新たな雇用も生む。職のない若者の働き場を創出できる。過疎化が進んだ山間地に少しは活気が戻るであろう。伐採した木材は、公費を投下している関係で、安く供給できる。外国の森林を収奪しなくて済む。建築に使えない木はバイオエタノールの原料にすればいい。

こんな比較に異論のある方もおられよう。しかし、戦後これほどのスギを人力で植えられたのだから、重機が普及した現代で植えかえられない筈はない、と私は思うのだが。

次は喫煙である。タバコは税金の塊のようなものである。税収を増やし行政に貢献している。しかし、その一方で、ガンなどの罹患率を高め健康を害する人を増やしている。多額の医療費負担にとどまらず、本人や家族を不幸に陥れる。国家レベルでとらえると、医療保険制度を圧迫している。さらに、貴重な労働人口が確実に減る。これら社会の経済的かつ人的ロスは計り知れない。これらのロスとタバコの税収とを比べた時、果たしてどちらが大きいのか、健康経済学で明確に解析すべきではないだろうか。

最後は、きわめて日常的なこと、食事である。ますます進む肉食化とジャンク・フード化は、人々の健康を害しているだけでなく、世界の食料問題をより深刻化させている。この問題も健康経済学で取り上げる必要があろう。

人は国の財産である。特に資源小国と言われている日本では、人は貴重な財産である。その人々が不健康な状態で、国の将来に明るい希望が持てるのだろうか。

(文責:鴇田  三芳)