第66話 害虫対策(1)

百姓雑話

彼岸を過ぎた。この頃から、桜の開花とともに、春がいっきに北上する。本州南岸を頻繁に低気圧がとおり、雨が降りやすくなる。時には重いボタ雪も降ったりする。

春を感じた植物が次々に芽をふき、いっせいに花を咲かせる。この周辺は内陸なのでまだまだ遅霜が心配であるが、それでも彼岸を過ぎると春をしっかり実感できる。春を感じるのは植物や人間だけではない。虫たちも同じである。暖かさに誘われ、越冬していた虫たちが活動し始める。毎年もっとも悩まされる害虫、アブラムシの活動もこの頃から活発になり始める。畑の野菜や草、あるいは周辺の草や木で越冬したアブラムシに羽が生え、一気に増えるからである。そのため、ひととおりの対策は遅くてもこの時期までには終わしておかなければならない。特にホトケノザ、ナズナ、それにカラスノエンドウはアブラ虫の大好物だから、畑の中はもちろん、畑の周囲も残しておいてはいけない。この対策を怠れば、梅雨入りするまでは確実に悩まされる。もし空梅雨にでもなったら、それこそ大変である。

余談になるが、ほとんどの農家は冬草をあまり気にしていない。しかし、あなどってはいけない。特にホトケノザ、カラスノエンドウ、それにハコベはとにかく厄介である。晩秋から春にかけて露地栽培するものは葉物が中心になり、これらの草が作物に絡みつき、収穫と荷作りがとても面倒になる。また、草の根についている土によって作物が汚れてしまう。汚れれば、当然のことながら、洗わなければならなくなる。洗えば、作物が傷みやすくなるだけでなく、体が冷え万病の元になる。つまり、手間が大幅に増え、体調を崩し、採算が非常に悪化するのである。これらの草で畑が占有されたら、有機農業で喰っていくのはとても難しくなると心すべきである。

本題に戻ろう。それでは、農薬を使わないで、アブラ虫の被害を最小限に抑えるにはどうすればいいのか。

一つは畑をきれいに管理することである。上でも挙げた、アブラ虫がつきやすいホトケノザ、ナズナ、カラスノエンドウはもちろんのこと、とにかく草はきれいに片付ける。これらの草が種をつけるまでには必ず取り除く。そして、取り除く際にアブラ虫が地面に落ち生き延びる可能性があるので、必ず耕しておく。面倒がって、草を取り除かずにトラクターで耕してはいけない。ただ目の前から草がなくなったように見えるだけである。草が土の中で種をつけ、その後何年間も悩まされるだけでなく、草についているアブラ虫が土の中で生き延びてしまうからである。横着は、害虫や草にも増して、有機農業の大敵である。

そして、もう一つの対策。それは、まったく逆の方法である。あえて草を生やしておくのである。草の中には、害虫もいるが、それを餌にする生き物たちも確実にいるので、その自然のバランスにまかせる。いわば自然農法に近い方法である。水田で夏場の果菜類を栽培する際に、私どもではこの方法をとっている。収穫量は少し減るものの、害虫の被害をほとんど受けず、栽培の手間も省けて、悪くはない。しかし、この方法は、畑をきれいに片付ける対策よりも、かなり難しい。

(文責:鴇田  三芳)