第304話 災害立国

百姓雑話

今年は台風被害が今のところ1回で済んでいる。それも、事前に対策をとっていたので暴風被害は比較的軽微で、運の良い年である。9月からの天候の推移も穏やかで、秋冬野菜が順調に育っている。

だからと言って、まだまだ安心できない。例年なら彼岸ごろに満開をむかえる金木犀(きんもくせい)が先週やっと満開になり、彼岸ごろまでには南方へ渡ってしまうツバメが先週もチラホラ残っていた。さらに先週金曜日から、本州南岸に秋雨前線が停滞し何日も天気がぐずつきそうである。これまた2週間ちかく遅い。とにかく今年の秋は、太平洋高気圧が強いのか異常に暖かい。ということは、11月いっぱい台風被害がありえるということである。

ところで近年、「観光立国」という言葉が躍っている。時を少し遡れば、戦後の日本は、欧米の最新技術を導入し模倣し、そして創意工夫を凝らし、アパレル、造船、鉄鋼、重機、電気・電子機器、自動車などの製造業が廃墟からの復活を牽引してきた。GDPが世界2位になった頃には「技術立国」が国民総意となり、サービス業が躍進した今でも技術立国という意識が国民に深く浸透している。

さらに時代をズーと巻き戻してみると、日本では災害が繰り返し襲ってきた。日本の歩みは災害と切っても切れない。とりわけ、自然災害は日本民族の気質、精神性に大きく影響し、国の有り様を強く規定してきた。いわば、昔から日本は「災害立国」と言っても過言ではあるまい。

いまだ記憶に新しい2011年3月11日の大災害によって、日本が災害立国であることを改めて思い知らされた。テクノロジーの極みとも思えた原発も自然の威力の前にはまったく無力であった。

自然と日々向き合い、時には自然と格闘する職業に就いてからというもの、私は日本人の国民性と災害との関係を考え続けてきた。それは、単に文化人類学的な視点からだけでなく、産業から政治、経済、軍事、教育、人間関係の持ち方など、多岐にわたっている。

先に挙げた観光立国にしても、地震や火山と密接に関連している急峻な地形や温泉と切り離しては有りえない。「行政は公共事業に税金を使い過ぎる」との批判は今に始まったわけでないが、そもそも自然災害の頻発する日本では仕方のない部分もある。

日本の経済力を支えているものの一つに日本人の勤勉さがある。この国民性も絶え間ない災害のなせる結果であろう。近代では、戦後の復興が何よりの証左である。そして、戦後復興を支えてきた産業技術もその源をたどれば、度重なる災害が育んだ匠の技にいたる。

日本には中華人民共和国の1割ほどの人口しかいない。それなのに、理系のノーベル賞受賞者ははるかに多い。なぜか? これもまた災害が育んだ匠の技と私は思っている。

もちろん、災害はない方がいい。しかし、時の経過を長いスパンで見た時、災害の恩恵も見逃してはならない。とりわけ自然災害は、傲慢な人類を謙虚にし、賢くする。

(文責:鴇田 三芳)