第69話 七つの力

百姓雑話

先月、農業をしたいという若者が2回訪ねてきた。30代前半の独身男性と30代後半の女性である。その女性の夫も就農に関心があり、今までは小さな家庭菜園を楽しんできたという。

ところで、非農家出身の新規就農者には7つの力が必要であると私は思っている。それは、財力、体力、忍耐力、基礎学力、思考力、人間関係力、そしてコミュニケーション能力である。よほど運が良ければ別だが、最低でも前の5つ、財力、体力、忍耐力、基礎学力、思考力は不可欠である。もし並みはずれた財力があれば、人を雇用できるので、体力に多少の問題があっても、営農は可能である。

まず財力について。就農するにあたって用意する資金の額には、桁違いの幅がある。本人の人生観や価値観、ライフスタイルや年齢、家族構成や就農地域、自分ひとりで営農するのか家族で営農するのか、あるいは農業を主業にするのか副業にするのか、などなど実に多くの要因が関係してくるからである。それでも、農業だけで喰っていこうとすれば、できれば1000万円くらいは用意した方がいいだろう。この点が、農家の跡取り息子と決定的に違うところである。

次の体力と忍耐力は、どんな仕事でも共通していることで、今さら説明することもあるまい。さらに、基礎学力と思考力も同様である。勝手のわからない異業種に新規参入するのだから、当然、不可欠である。

くわえて、天候や自然環境に大きく左右されるという点からも、これら5つの力は欠くべからざる能力で、日常的に必要になる。ここで、わかりやすい例をひとつ挙げよう。今年1月14日、関東地方の南岸を爆弾低気圧が通過し、かなりの雪を降らせ、われらの農園でも被害がでた。台風と違い、爆弾低気圧は日本近海で急速に発達するため、俊敏な対策が要求される。どの資材や道具を使い、どんな作業をどのような手順で進めればいいのか素早く判断しなければならない。適切な資材がなければ購入し、高等学校程度の気象学と中学校レベルの物理の基礎知識などを動員して考える。そして決めたら、厳しい天気のなか、何の利益も生まない辛い作業をひとつひとつ黙々とこなしていかなければならない。それには、体力と忍耐力が不可欠である。

そして、人間関係力とコミュニケーション能力も農業分野に限られたことではないが、農家の跡取りよりも非農家出身の新規就農者にはより必要な能力である。なぜなら、新たな地で周辺の農家などの皆さんと良い人間関係を築くことが求められるからである。

厳しい指摘かもしれないが、これが現実である。

とは言え、これらの能力に多少自信がなくても、どうにかなることがある。それは謙虚な心をいつも忘れず、周辺の農家に敬意を払い、毎日朝早くから一所懸命に働くことである。2、3年も頑張り続け、その間に資金が尽きなければ、農業を真面目に続けている周りの農家が大きな力になってくれる。農業の知識をなまじ携え、口先だけで体の動きが鈍い新規就農者より、はるかに可能性がある。このことは、働き盛りに農家に転身する農学者が皆無に等しいことからも想像できるであろう。

(文責:鴇田  三芳)