第77話 資本主義の衰退(1)

百姓雑話

人それぞれに主義・主張があり、世に○○主義というものが溢れている。数ある主義の中でも、身近な主義の最大公約数を挙げると、自由主義、個人主義、民主主義、資本主義、共産主義などがある。かつては帝国主義なども幅を利かせていた。近年ではグローバリズムも私たちの生活と密接に関係している。

なかでも、ここ百年間で急速に力をつけた主義は民主主義と資本主義ではないだろうか。どちらも長い人類史の中では新参者であるが、たぶん民主主義は今後も不動の地位を占めていくであろう。しかし、資本主義はどうであろうか。私は、経済学の専門家ではないので確信はないが、「資本主義は衰退しつつある」と感じている。世界に君臨する中心的な主義の地位からは陥落すると予測している。すでに、その入口を先進国は通ってしまった気がする。いずれは新興国や途上国も通るであろう。

世間では、アベノミクスという貨幣ばらまき政策によって、株価が急騰した。円安によって輸出産業は好景気にわいている。しかし、これは資本主義の衰退の入口ではないだろうか。

そもそも、資本主義はインフレを前提にしている。また、人口の増加と物質的な豊かさの追求が必要条件である。明治維新以降、日本もそれらを体現してきた。特に戦後はほとんどの国民が、資本主義に疑問を抱かず、いわゆる「高度経済成長」というインフレ経済を是認してきた。

しかし1990年代初めから、先進国では類のない20年以上ものデフレを経験してきた。ほとんどの企業は、利益を内部留保し、生産設備などへの投資を控えてきた。また、個人は預貯金を溜めこみ、その資金が国債へと流れ込んでいった。年々、社会全体のカネ回りが悪くなり、資本主義が機能不全に陥ってしまった。そして、日本人は資本主義の弊害に気づくとともに、物やおカネの価値が上がり住宅ローンなどの金利が下がるデフレ経済の利点も学んできた。

ところが、インフレをめざすアベノミクスという「貨幣ばらまき」政策の登場で、一気に資本主義が息を吹き返したかのように見える。今後もインフレを持続させようとすれば、とうぜん、市中の貨幣を増やし続けなければならない。その結果、国から個人のレベルにいたるまで「カネ」が溢れ、「カネ」の価値が急速に失われるであろう。

さらに、だぶついた「カネ」は、投機マネーとして不動産や資源、食料や金の市場に流れ込み、為替や株価も大きく変動させる。これは、おカネの価値が極端に相対化されることを意味し、おカネの信用を低めることでもある。

これが資本主義の根源的な自己矛盾なのである。上述したように、資本主義はインフレ経済に立脚しているが、インフレを続けるために貨幣を増刷し続けると資本主義の根幹である「カネ」の価値と信用が低下してしまう。つまり、自己矛盾の必然的な帰結として、社会が成熟すると資本主義が衰えてしまうのであう。

(文責:鴇田 三芳)