第135話 化学物質過敏症

百姓雑話

先月下旬、「化学物質過敏症」(Chemical Sensitivity)の方々が野菜を買いに来られた。インターネットで調べたらしい。お二人とも厳重なマスクをかけていた。頂いたパンフレットによると、「一度多量の化学物質を浴びたり、少量でも長期にわたって浴び続けることによって、その人の体の許容量を超えたときに、拒否反応として一気に発症する」とのことである。スギ花粉症と同じようである。身近にある化学物質として、防虫剤、農薬、合成洗剤、清掃用洗剤、化粧品、タバコの煙、排気ガスなどが原因となっているらしい。意外なところでは、家電製品などから放出される電磁波も原因になるというから、過敏体質の人であれば、誰でも発症する可能性がある。けっして他人事ではない。

ところで私は、いつも胃腸の調子がとても良いのだが、彼らが尋ねて来られた頃、珍しく下痢で悩んでいた。枝豆とミニトマトを食べると下痢をするのである。当初は食べ過ぎを疑ったが、昨年まではそんなことはなかったので、食べ過ぎによる下痢とはどうも思えなかった。そんな折、上述の方々が来られ、私は農薬を疑うようになった。今までミニトマトに1度も農薬をかけたことがなかったが、今年はアブラ虫に悩まされ、仕方なく1回殺虫剤をかけたのである。この殺虫剤がどうも怪しい。

もともと、臭いなどに過敏で、周囲の人々が感じない物質にも反応する。だから、タバコは吸えない。何か燃やす煙にさえも胸が締めつけられる。スギ花粉症にいたっては、十代の頃から40年以上も付き合っている。誰かが風上で農薬を散布していると、唇がピリピリすることもある。

そんな体質のため、上述の「化学物質過敏症」の方々の苦しさが自分のことのようにわかる。最近では、ネギをいれるビニール袋にも強い異臭を感じた。妻にそのビニール袋の臭いを嗅いでもらったが、特に何とも感じないという。内心、「まったく鈍感な人間はいいなあー。きっと長生きする」と思った。

また、20年ほど昔になるが、妻が社宅として借りた新築マンションに越した時、壁などから放出されるホルマリンの臭いで死にそうになった。誇張している訳ではない。その時も、妻は特に異臭も苦痛も感じなかった。結局、妻とは別の部屋で窓を開けながら寝た。世間ではその当時、「シック・ハウス症候群」が社会問題化していた。今から思えば、「化学物質過敏症」の走りである。

こんな訳で、私は農薬を使いたくないのである。「農薬を使わなければ、安全性が高まり付加価値が増す」という理由で農薬を使わない農民が大多数であろう。しかし私の場合、それ以前の問題として、自分の体が農薬を嫌っているのである。

どうして人類は、こんなにも多種多様な化学物質を合成してしまったのだろうか。原発事故以来、放射能除染が大問題になっているが、身の周りに溢れている化学物質も大きな問題ではないだろうか。

(文責:鴇田 三芳)