第315話 根

百姓雑話

先日、人参を掘っていたら、写真のようなものがあった。今年は夏から秋にかけて雨量が多かったため、上の人参は腐ってしまったのだろう。それでも、生き延びて春に花を咲かせようと、たくさんの根を新たに生やしている。

一般的に、花を見て「きれいだな」と思うことはあっても、根を見てそう思う人はきわめて稀(まれ)だろう。しかし私は、根を見て「きれいだな」と思うことがある。「見事だ。すばらしい」と思うことはたびたびである。たぶん職業柄、そう思うのかもしれない。野菜の収穫量や品質は根の影響を大きく受けるので、根の状態が気になって仕方がないのである。根の数が少ないもの、弱いもの、あるいは働きが劣るものは、いくら人間が改善しようと努力しても、ほとんど徒労に終わってしまう。

ところで、私たちの胃腸の働きは、植物の根に酷似している。食べ物の消化や吸収はもとより、ホルモンを作ったり、脳や他の臓器に働きかけたりもする。

植物の根は、胃腸のような働きにくわえ、大地にしっかり張り、地上部が倒れないように支えてもいる。根の良し悪しは、胃腸の良し悪し以上に、植物にとっては死活問題なのである。潰れたニンジン

その根は、輝かしい光にあたることもなく、きれいな花を咲かせるでもなく、真っ暗な泥の中で黙々と働いている。

できれば私も、根のような、そんな存在でありたい。

(文責:鴇田 三芳)