第117話 日本の有機農産物はなぜ高いのか

百姓雑話

昨年末、神戸から電話が入った。来年オープンするカフェで有機栽培の野菜をぜひ使いたく宅配してもらえるか、という話しであった。千葉から送ると送料が高くつくので地元で仕入れることを勧めたところ、地元では手ごろな値段で買えないと嘆いていた。

日本では、有機農産物の需要に対して生産量があまりにも少なく、加えて生産効率が悪いため、値段が高止まりしているのである。かつて、私どもの農場で働いていたアメリカ人青年も値段の高さに驚いていた。母国では有機農産物がとても安く売られているという。

ドイツのボンにあるIFOAM(国際有機農業運動連盟)のデータによると、有機栽培している農地の面積で世界一はオーストラリアで、12,000,000ヘクタールあるという。日本には9,000ヘクタールしかない。国土の面積と農地の利用方法が違うので単純には比較できないが、あまりにも差がある。農産物の安全性が問題視されている中国でさえ1,800,000ヘクタール近くあり、日本の200倍である。農林水産省の,2010年のデータによれば、全農産物に占める有機農産物の割合は0.18%しかない。

日本の有機農産物の生産量が少なく値段が高い原因を生産現場に探ると、大きな原因が3つ見つかる。まず一つ目は気候である。梅雨時にカビが生えやすいが、植物の病気もほとんどがカビによるもので、高温多湿の期間が長い日本では病気が多発し、農民は殺菌剤を手放せない。例えばブドウは、土の痩せた乾燥地で栽培すると病気は発生しないが、関東以南では梅雨の時期に病気が発生しやすい。加えて、高温多湿のために草がはびこりやすく、除草剤も広く普及している。

二つ目の原因は農地である。だだっ広い農地であれば、その中に生息する害虫をひとたび徹底的に駆除すれば、その後はほとんど発生しない。しかし、日本では農地一枚あたりの面積が非常に狭いため、自分の農地を対策しても周囲の農地から害虫や病気が侵入して来る。当然の結果として、農薬を使い続けることになる。

そして、あえて三つ目の原因を挙げるとすれば、それは農民の知恵の退化があるかもしれない。50年ほど前までは、日本では農薬をほとんど使用していなかったのである。

次に、消費側の原因を指摘したい。戦後、食生活の変化、いわゆる「洋食化」が進む中で、消費者は食の贅沢を追求してきた。例えば、一年中トマトを食べる習慣がすっかり定着した。それも、より甘いトマトを食べたいという消費者が圧倒的多数である。しかし、トマトは本来、夏の野菜であり、昔は酸っぱいのが当たり前であった。昔ながらの酸味の強いトマトを夏に栽培すれば病気に強く有機栽培もさほど難しくはないが、季節外れに甘いトマトを栽培すれば、病気との戦いになり農薬を使わざるをえなくなる。さらに、ハウスを暖房するために石油を燃やすので生産コストが増える一方で、冬は日照量が少なく寒いので期間あたりの収穫量が少ない。それらは結局、すべて値段に反映されてくる。

最後に、流通側の原因を挙げよう。日本では有機農産物を求める消費者が都会に集中している。一方、それを生産する農家は2つのタイプがあり、おもに都市近郊で栽培し直売しているタイプと、都会から離れた地域で栽培し生協や「・・・・・の会」などという販売組織を通じて供給しているタイプがある。前者は、生産効率が悪いので、販売価格を高く設定する傾向がある。後者は、生産効率は良いのだが、販売組織に依存するため流通経費が上乗せされる。結局、どちらのタイプでも末端価格が高くなってしまうのである。

(文責:鴇田  三芳)