第287話 病気も産業

百姓雑話

5月の過労と強度のストレスによってか、6月初めに帯状疱疹になってしまった。初めての経験である。罹(かか)ったことがない人にはわからないかもしれないが、とにかく痛い。夜もなかなか寝つけず、肝心の体力が消耗する病気である。抗生剤の服用で病の峠は越したものの、いまだに左上半身が四六時中ピリピリと痛む。

経験したことのない痛みと倦怠感が急速に進行したので、地元で有名な大学病院に行った。受付開始の8時に着いたら、何と200人ちかくの患者がすでに受付の順番を待っていた。驚いた。つくづく「病気も産業だなー」と合点した。自分は一般病院の紹介状がなかったので、非常に待たされた。くわえて、治療費の他に別途5000円も支払った。踏んだり蹴ったりである。皮膚科の若い女医さんは、「症状がだいぶひどいですね。1週間くらい入院したほうがいいです」と何度も勧めてくれた。しかし、こちらにはこちらの事情があるし、もとより私は入院嫌いのため、丁重にお断りし、その日は帰宅した。何しろ自分は、免疫力と体調管理能力に優れているとの自負が強い。

今年は今までのところ空梅雨で、夏の水不足が心配される。取水制限だけにとどまらす、稲作にも悪影響を及ぼす。梅雨あっての瑞穂の国である。

とは言え、梅雨の時期はうっとうしい。カビがあちこちに生え、健康を害することもある。それは植物も同じで、この時期は病気が多発する。梅雨に入って畑でも病気が発生しやすくなる。害虫も厄介だが、病気の方がもっと厄介である。近所に何か所も梨農場があるが、梨は数十回の農薬をかける。その大半は病気対策である。野菜も果樹もたくさん収穫しようとすると、どうしても病気や害虫の被害を受けやすくなる。いわば、人間の欲望が病害虫の発生を助長している。人間の健康も同様である。

ところで日本と韓国は、中国の次に農薬を大量に使用している。アメリカと比べると、日本は面積あたりの使用量が5倍以上も多い。少し古いデータ(,2011年)だが、日本での農薬市場規模は約3,300億円にのぼっている。立派な産業である。

人の健康維持に欠かせないと思われている医薬品の市場規模は10兆円を超えている。植物にしろ人間にしろ、病気は確固たる産業を形成しているのである。

(文責:鴇田 三芳)