彼岸も過ぎ、日の出がだいぶ早くなった。私どもでは、日の出に合わせて始業時刻を変えるため、今月からは6時30分に作業を始める。4月でも霜が降りることがあるので、太陽が昇っていても早朝はまだまだ寒い。
ところで、勤労者の圧倒的多数がサラリーマンになり、生活パターンが夜行化したからだろうか、「早起きは三文の徳」という諺の影が薄くなった。若い世代にきいても、その意味はわからないであろう。
そんな時代になっても、まともに営農している農民の多くは早朝から働いている。体を酷使することが多いので早起きが辛い時もあるが、そうしないと農民は喰っていけないからである。
私は、研修に来る新規就農者にできるだけ早朝から働くように必ず勧める。どんなに知識があっても、どんなに体力があっても、早起きが苦手な人は挫折しやすい。重役出勤する新規就農者を地元の農民は相手にしない。「周りの人たちは君の作業が良いか悪いかなど見ていない。研修生が立派な成果など上げるはずがなく、地元の人はそんなこと十分わかっている。ただ、遠巻きに静観し、早朝から頑張っている姿に共感するだけなんだ。」とアドバイスする。
かく言う私も、もともとは夜型人間であった。農薬を使う一般的な農業から農薬を使わない有機農業に転換した頃から、仕方なく朝型に変えてきた。だから、今でも早起きは辛い。
では、なぜ有機農業では早起きが不可欠なのか。いくつかの例を挙げて説明したい。まず、害虫の問題が一番の理由である。害虫の中でも、昆虫の被害を最小限に抑えるためには、早朝の種まきや苗の植え付けが有効なのである。なぜなら、それらの害虫は夜か暖かい時間帯にしか飛ばないため、早朝は比較的安全なのである。
次の理由は天気の悪影響を最小限にすることである。特に雨の影響は日常的で、有機農業をしていると、雨の降る直前に行なう作業がいくつもある。したがって、まずは早朝に農場にいる方が何かと有利なのである。例えば、アブラ虫に付かれてしまった野菜を片付ける際、アブラ虫が地面にこぼれる。それを放置すると、周辺の作物に移動してしまうが、片付けた直後に軽く耕し、その後間もなくある程度の雨が降ればアブラ虫はほぼ完璧に駆逐できる。この作業を他の作業の合い間をぬって行なうには、やはり早起きが欠かせない。
三つ目の理由は作業効率の関係である。第117話「日本の有機農産物はなぜ高いか」でも述べたように、日本の農地の一区画は非常に狭いため作業効率が良くない。加えて、一般的な栽培方法に比べ、有機栽培すると作業の種類が増えるため作業効率がさらに落ちてしまう。したがって、早朝から畑に出て作業時間を増やさないと、作業をこなせないのである。
このような現実から、有機農業を生業にする者にとっては、「早起きは三文の徳」以上に、絶対条件と言っても過言ではない。
(文責:鴇田 三芳)