第395話 半農半Xのすすめ(2)

百姓雑話

前話の続きです。

まず今後の日本の食料事情を予測してみましょう。日本の食料自給率(カロリーベース)は30%後半と公表されてきました。生産現場で日々働く私はもっと高いと思いたいのですが、スーパーに並ぶ食料品や増え続ける耕作放棄地を見るにつけ、日本の自給率はもっと低いと思えてなりません。

G7諸国の中では、日本の食料自給率は最下位です。ダンペコです。この問題は、この数字自体よりも、何かの事情で食料輸入が難しくなる危険性です。実際、新型コロナ・パンデミックの時に世界的な輸送が滞り、ウクライナ戦争が勃発した時や突然の円安で日本の食料価格は上がり続けてきました。

今後、台湾有事によるシーレーンの封鎖、フィリピンのピナツボ山のような大噴火による地球規模の寒冷化、東南海で起きる巨大地震と津波、富士山噴火による降灰や首都直下型地震などなど、日本の食料事情を危機に陥れそうなことがいつ起きても不思議ではありません。

かつて私は、ソマリアの半砂漠地帯に避難してきたエチオピア難民への食料支援や自立支援に携わったことがあります。その活動の中で、将来きっと日本にも食料危機が訪れると予感しました。「食料難になったら国は何とか手を打つだろう」という正常性バイアスを捨て、自分の身は自分で守るという信念から就農を決意しました。その後結婚を機に、「妻は公務員、私は農民」という選択をし、私と妻で「半農半X」を実践してきました。

今から農業を始めようとする若者に私が「半農半X」を勧めるのは、このような私と妻の人生実験からです。

農業はあまり儲かりません。どう頑張っても、一人当たりの時給は千円をなかなか越えません。各県が設定している最低賃金以下の所得に甘んじている農民が大多数です。農林省が公表した令和4年のデータによると、畑作の主業農家の農業所得は223万円ほど、露地野菜作は218万円ほどです。水田作にいたっては何と1万円です。一番所得の多い施設花卉作農家でも406万円ほどです。子どもを複数持つ農民が農業所得だけで家計をなりたたせるのは非常に厳しい。

もし上述のような戦争や大規模災害が起き日本が食料難になれば、農産物が高騰して農家は儲かるだろうと考えるのは早計です。そんな場合が起きれば、政府は何らかの食料統制をかけ、農民が大儲けするような政策をとらないでしょう。政治家は、少数の農民票よりも、大多数の消費者票に迎合するからです。

農民を志す若者に改めて勧めます。お子さんを持ちたいのであれば、自身や家族の誰かが現金収入を得る手段も確保しておくことを。半農半✕が家計を安定させる最善の選択と私は思っています。

(文責:鴇田 三芳)