第125話 富を生まない借金

百姓雑話

前話に続き、農村の現実を知っていただきたい。

私の住んでいる市は梨の生産量がとても多い。千葉県下でも有数の生産地である。我が家の近くにも大きな梨園があり、右の写真のように、春先から秋にかけ「SS」という農薬散布機がもうもうと農薬を噴き上げている。50mほど離れてはいるが、風向きによっては自宅まで飛んでくる。

かつては至る所からSSの轟音が鳴り響いていたが、近年その轟音があまり聞こえなくなってきた。梨農家が次々に廃業しているからである。そして、梨の木が撤去され住宅用の土地に変えられていく。特にここ1、2年、あちこちの梨園が宅地化されているので、何か理由があるのだろうと、地元の梨農家の方に事情を尋ねてみた。すると、4つの理由を挙げられた。

まず、後継者がいないこと。

次に、税金があまりにも高いこと。市街化区域内では1000平米(1反)あたり年間30万円の固定資産税がかかるので、300万円を超える税を支払う梨農家も珍しくないという。さらに、その梨園を子どもに相続する際には億という相続税がかかるというから、生きている内に処分したくもなる。これに拍車をかけているのが農地を宅地化できる期限が迫っていることである。市の条例により、来年3月までに宅地化の許可を得ないと、その後はなかなか許可がおりなくなる。この機を逃すと、税金を払いきれず、借金地獄に陥ってしまうのである。

三番目の理由は、梨園の周辺に移り住んできた住民の苦情である。冒頭で述べたSSによる農薬散布は、毒性の関係で早朝行なう。その際、SSが轟音を放つため、市の環境課に苦情が入るという。また、肥料や堆肥をまくと、その臭いが周辺に漂い、これも苦情の元になってしまう。そのため、続けたくても、続けられなくなる。

そして、四番目の理由は借金である。かつて梨は贈答用として高値で売られていた。市川市には梨御殿が何軒もあった。しかし、1990年代初めのバブル経済の破綻から続く不景気で贈答用がめっきり減り、多くの梨農家が安値で市場に出荷せざるをえなくなり、売上額が減少してしまった。その結果、営農に投資するというよりも、税金を払うため、あるいは家族の生活を支えるために借金を重ねてきた。いくら頑張っても借金が返せず、上述のように梨園を宅地に変えざるをえなくなったのである。つまり、これらの借金は結果的に、新たな富を生むことへの投資ではなく、新たな富を生まない借金になってしまった。

この梨農家の例はけっして他人事ではない。インフレ経済のもとでGDPや所得が右肩上がりの時代であれば、借金は新たな富を生む可能性が十分あった。しかし、これからの日本は少子高齢化がいっそう進みデフレ経済下で国力が衰えていくことが予想されるので、借金は新たな富を生むどころか破綻のリスクを大きくする。梨農家は農地を宅地に変えれば何億というお金が入るが、国は一体どうするのであろうか。

(文責:鴇田 三芳)