第248話 蚊

百姓雑話

夏になると我々の安眠を妨げ、血を吸いに来る蚊たち。農園でも夏になるとわんさか発生し、作業中に襲撃を受けます。この世からいなくなってほしいとさえ思います。

世界では蚊が媒介することによる伝染病の死者が、毎年75万人で地球上で最も人間を殺害する生物となっているとのことです(ちなみに2位は人間)。日本でもジカ熱、デング熱の感染拡大が懸念され、公園の封鎖などがあったことは記憶に新しいことです。

日本には100種類以上の蚊がいるようですが、我々が主にお世話になっている(?)蚊は黒を白の縞模様のヒトスジシマカと茶色い体を持つアカイエカの2種類でしょう。農園にいるのはもっぱら前者です。林の中に仕込んだシイタケの原木をたまに見に行くと、その時は蚊の多さに早く林から抜け出したいと思います。通称ヤブカと呼ばれるだけあって藪での個体数は多いように思います。藪の中に人はめったに行かないのに何故そんなに多いのか、普段彼らはどんな生活をしているのか、疑問に思い調べてみました。

普段の餌は植物の蜜や果汁など糖分を含む液体ですが、メスは卵を発達させるのにタンパク質が必要で動物の血を吸うようです。そして血を吸わなくては卵を産めないようです。温度の高い所へ、二酸化炭素の多い所へ向かう習性があります。また湿度にも反応するようで、新陳代謝の良い人、汗っかきの人は蚊に刺されやすいと言えるでしょう。

25~30℃の環境では10日ほどで卵から成虫になるようです。少しの水たまりがあれば生育可能のようで、例えば竹の切株のたまり水なんかに卵を産み付けているのかもしれません。蚊の寿命は夏の盛りでは2~3週間、卵で越冬するもの(ヒトスジシマカ)、成虫で越冬するもの(アカイエカ)、種によって様々のようです。

一生の間に雌の蚊は1~4回ほど吸血-産卵のサイクルを繰り返します。吸血後、雌は卵が成熟するまで安全な場所で2~3日休止しています。その間は他の動物を吸血する事はありません。卵が成熟すると雌は適当な水域に一度で50~100個程度の卵を産み、すぐに次の吸血の準備をします。

水面に産みつけられた卵は2~3日で孵化し、そこでボウフラ時代を過ごします。ボウフラは水中のデトリタスや微生物などの有機物を餌として、4回の脱皮を経て蛹になります。蛹の間は餌を食べずに2~3日後に羽化して成虫になります。羽化後1日は体の骨格がちゃんとするまでじっとおとなしくしていますが、成虫としての準備が整うと、雄と雌は交尾をし、羽化後2~3日で雌は卵の成熟に必要な栄養素を得るために動物から吸血します。

行動範囲は10~100mのオーダーのようで、産卵や餌場である竹藪に多くいて雌たちが血を求めて数10m離れた農園の作業場に襲撃に来ていることが想像されます。

以上のように彼らは子孫を残すことのみを目的として命がけで人間の血を吸いに来ていることがわかりました。追い払っても叩き殺そうとしても、めげずに攻撃してくるその執念は本当にすごいなと思います。

彼らもクモなどの餌となるようですし、植物の受粉を助けて自然界の中で役割を担っています。そんな彼らの生存のために、自然界に生かされている人間も少しばかりの血を提供してあげてもよいのではという気もしてきました。安眠を妨げず、痒さをもたらさなければ・・・・・・・。

(文責:塚田 創)