第139話 目標とストレス

百姓雑話

私どもの農園では、この時期から秋の彼岸くらいまでが年間でもっとも忙しい。夏野菜の収穫量がピークにさしかかり、その一方で10種類以上の秋冬野菜の種を定期的に蒔いていくためである。

例えば、ブロッコリー、キャベツ、レタス、サニーレタスは7月下旬から定期的に何度も蒔いているので、ちょうど今頃からを頻繁に定植し始める。育苗ハウスの中は定植を待っている苗がたくさん並び、水やりに気が抜けない。9月に入るとすぐに、春菊、白菜、大根、小松菜、ルッコラの種を蒔き始め、中旬からはほうれん草、水菜、玉ねぎ、タアサイ、にんにく、菜の花、春ブロッコリーと矢継ぎ早に種蒔きや定植が続く。

これらの中で、もっとも頻繁に作付けるのが、ブロッコリー、小松菜、ルッコラ、ほうれん草である。ブロッコリーは5日おきに、小松菜とルッコラは6日おきに、ほうれん草は7日から10日おきに、休まず蒔いていく。そうしないと途中で出荷が途切れてしまい、お客様の期待を裏切ることになってしまうからである。春夏野菜と違い、秋冬野菜は、種まきが数日遅れると、収穫時期は1週間以上もずれ込むことがあるので、作付け計画をしっかり実行しなければならない。多種類の野菜を通年で直売している者が避けて通れないスケジュールである。

きわめてタイトに組まれた作付けを10年以上も続けてきたので、特に技術的な問題で悩むことはないのだが、健康管理にはとても気をつかう。体調を崩して2、3日も休めば、計画は大幅に狂ってしまう。

幸い、暑さが好きな私は10年以上もこの時期に体調を崩したことはないのだが、精神面の負担が非常に大きくのしかかる。9月になると、台風や秋の長雨によって畑がぬかり作付けできないことが度々起きるため、一層ストレスがたまってくる。露地栽培の宿命である。

農業という自営業に限らず、どんな仕事をするのであっても、目標を立て責任をもって職務を遂行する時、不可避の事態に阻まれると、強烈なストレスがかかってくるものである。私もこの時期は、夏バテとストレスで寝つきが悪くなり、現代病とも言える鬱病ぎみになることがある。

20年以上も厳しい夏を乗り切ってきた私だが、心身ともに疲れ切りスズメやカラスたちをぼんやり見ていると、「目標など立てず、行きあたりばったりの生き方もまんざら悪くはないな。所詮、一人の普通の人間が目標を立てて頑張ったところで、結果はたかがしれている」と思うことがある。

(文責:鴇田 三芳)