第144話 三「安」(2)

百姓雑話

前話では、生鮮野菜の安全と安価は両立しにくいことを供給側から述べてみた。今話では、安定供給と安価・安全について、供給側と消費側の双方から眺めてみたい。

まず、供給する農家の側から述べる。

日本では、気温の影響を大きく受けやすい野菜は産地が移っていくことで、安定供給が実現されている。キャベツを例にとれば、冬から夏にかけて暖かい地方から高地や北海道へと大産地が移動していく。逆に、夏から冬にかけては寒い地方から暖かい方へと戻っていく。当然のことながら、大産地と消費地が離れれば離れるほど、輸送コストが増える。特に、重量野菜の代表であるキャベツ、大根、白菜は末端の販売価格に占める輸送コストの割合が高くなる。価格が暴落すれば、段ボール代と輸送費などのコストを除くとマイナス、つまり働いても自腹を切ることになる。

では、輸送コストを削減するために、消費地の近くでキャベツを通年栽培したらどうなるか。関東平野では、品種をいろいろ変えたりすれば、ほぼ通年で出荷できるが、キャベツは暑さが苦手であり、夏場は病気や害虫の被害を受けやすい。当然のことながら、農薬の使用量が増え、生産コストも上がってしまう。

次に消費者側から、安定供給と安価・安全について考えてみたい。

野菜を対面販売していると、消費者の食の嗜好が手に取るようにわかる。そして、私がもっとも耳にする消費者の声は、冬でも「トマトないの?」である。一年中トマトを食べたいというのである。私もトマトが好きなので、その気持ちは十分わかる。

しかし、この「一年中食べたい」という嗜好が問題なのである。例えばトマトは、夏野菜なので、寒い時期には暖房されたハウスでしか栽培できない。当然のことながら、コストがかさむ。つまり、「一年中食べたい」という嗜好が価格を上げるのである。胡瓜も同様に、冬場は値段が高い。夏場の倍近くする。そして、冬場に栽培される夏野菜には農薬が頻繁にかけられ、安全性が劣る。

結局、「旬に関係なく一年中好きな野菜を食べたい」という消費者嗜好が、過剰な安定供給を要求し、価格を押し上げ、安全を犠牲にするということにつながる。流通システムが発達したためにスーパーなどにはどんな野菜でも一年中売られているが、四季のはっきりした日本では、安全と安価と安定供給のすべてを満たすは極めて難しいのである。

ちなみに、上記の消費者嗜好によって、生鮮野菜は需給関係のインバランスが末端価格に大きく影響する。たった2割でも品薄になると、スーパーなどの末端価格は2倍になる。逆に、2割供給過剰になると、半値になると言われている。わずかの需給関係のインバランスで末端価格が大きく変動する今までのような状況は、生産者と消費者の双方にとってマイナス面の方が多い。縮小していく日本経済を想定すれば、供給の安定よりも価格の安定の方がより重要であると私は考えているのだが、いかがであろうか。

(文責:鴇田 三芳)