今年も桜の季節が近づいてきました。前回はオオイヌノフグリが咲き始めたことについて書きましたが、植物が花を咲かせる仕組みについて調べるために本棚で眠っていた植物生理学の本を引っ張り出してきました。
植物の花の生物的な意義としては、植物は自ら動けないので鳥や虫たちを集め、生殖を補助してもらうことです。例えばある特定の虫に花粉の運搬を依存している植物はその虫がいる時期に花を作らないと種の存続に影響を及ぼします。そのためにある程度、正確に特定の時期に咲く仕組みが必要となります。
まず花が咲くためには花芽が形成される必要があります。過去の様々な研究から、以下のことが明らかにされています。植物が花芽を形成するには昼間の長さや温度が関係し、共通の物質(花成ホルモン)が関与していること、暗期(夜間)に葉で合成された花成ホルモンが師管を通って移動すること、その速さは50㎝/時間程度でゆっくりであること、この花成ホルモンは1937年にフロリゲンと命名されたが、正体は不明であること。
フロリゲンの正体は2000年代に明らかにされました。そのような物質があるだろうと言われて半世紀以上の年月を経て解明されたわけです。これには日本人の研究が大きく貢献したようです。フロリゲンの正体はFTタンパク質というたんぱく質でこれが葉から移動し、花芽が形成されるということです。
ここで疑問に思うのは、葉が光を感知して花芽を誘導するFTタンパク質を作るのであるなら、桜など冬季に葉を持たない植物ではどのように花を咲かせるのでしょうか? 桜に関していえば、すでに花芽は初夏にはできていて、いつでも咲ける状態にあるということです。ではなぜ夏や秋に咲かないかといえば、成長抑制ホルモンが葉で作られ花芽に移動し、このホルモンの影響で休眠状態になるということです。成長抑制ホルモンは冬季の間、2~12℃の低温にさらされることで壊され、1月下旬には休眠状態が解けるようです。そして暖かくなるにつれ、次々に開花するといった仕組みです。
現在は、植物の成長を制御するためにハウス施設内で温度や光を制御していますが、今後は例えば、FTタンパク質を接種して好きな時に花芽を形成させるような生産もなされるかもしれません。
開花の仕組みを知ることで、畑や周辺の木々を見る目も以前とは多少異なってきます。農園でもアブラナ科の植物が次々に花芽を形成し、開花しています。ホトケノザ、ハコベといった雑草たち、周辺の梅も花を咲かせています。彼らは日に日に長くなる昼間や温度の上昇を感知し、花を咲かせています。
今回の原稿を書くために、本棚で眠っていた学生時代の本を引っ張り出してきて、あの頃は何を学んでいたのだろうかと学生時代の不勉強を反省する次第です。これからの若者は受験のための勉強だけにとらわれるのではなく、身近な不思議から自ら調べていくような、そんな勉強を大切にしていったらいいのではないかと自らの経験を踏まえ思った次第です。
(文責:塚田 創)