第151話 大器晩成

百姓雑話

とても野菜がおいしい季節になった。私は、枝豆とブロッコリーとさつま芋が特に好きで、これらは毎日、そして一年中食べたい。6月中旬から採れていた枝豆が10月上旬に終わると、ちょうどブロッコリーとさつま芋の季節が来る。今年もさつま芋は、朝から晩まで日が当たる南傾斜の畑で栽培したため、3kg以上もある巨大な芋がごろごろ採れた。ポクポクで味も良い。おいしいだけでなく、さつま芋には、ジャガ芋と同じように、加熱しても壊れにくいビタミンCが含まれている。

野菜にも種類によって、種まきから収穫までの期間にかなり幅がある。1ヵ月以内のものもあれば、3年以上もかかるものもある。さつま芋や里芋は、お米と同じように、植え付けから収穫まで半年近くかかる。同じ根菜でも、晩夏にまく大根は収穫まで2ヵ月もかからない。秋のラディッシュにいたっては、種をまいてから収穫までの期間、いわゆる「在圃期間」が3週間くらいである。栽培の回転が早く、利益が十分あがる野菜である。その一方で、さつま芋や里芋は、どんな技術と工夫をこらしても、年に一度しか採れない。そのため、栽培規模を大きくし機械化しないと、利益がなかなか出ない。

もっとも栽培期間の長い野菜は、私の知るかぎり、アスパラガスであろう。種をまいてから収穫にこぎつけるまで、実に3年ちかくかかる。その間は草取りや病害虫の対策をするだけである。農薬を使わなければ、とても利益など出てこない。今から10年ほど前にアスパラガスを栽培したことがあるが、1回収穫しただけで、その後は草に負けてしまった。それ以来、お客様から要望があっても、一度も作っていない。利益うんぬんの以前に、露地栽培では草取りや病害虫の対策が非常に大変で根負けしてしまうのである。

ところで、農業以外の産業に目をやると、IT革命以降、軽薄短小のビジネスが幅を利かせている。パソコンに向かってコンマ何秒の単位でポンポンとキーを打ち、架空のお金や物を右から左に動かし、巨万の富を一瞬にして獲得する企業や個人も珍しくないという。その一方で、重厚長大の産業は苦戦しているように見える。地デジ切り替えのためにテレビがそうとう売れ、ウィンドーズXPのサポート終了によるパソコン買い替え需要があったが、それ以降、家電製品の製造も販売もパッとしない。かろうじて、自動車業界が頑張っているものの、今や車の中身はコンピューターとソフトが重要で、その意味では軽薄短小の産業と言えなくもない。そういう時代になってしまったのである。

農業に視点を戻すと、今や農業も同じである。栽培期間の長いものや重い野菜、いわゆる「重量野菜」を栽培しても儲からない。足腰を痛めるリスクが大きいだけである。利益を十分あげ農業で喰っていくためには、栽培の回転が早いもの、つまり在圃期間が短く軽い野菜を作ることである。都内23区内で小松菜だけ栽培し利益を十分あげている農家がかなりいるのもうなずける。しかし、いくつかの例外はあるものの、おいしく栄養が豊富な農産物は栽培期間が長い。例えば、真冬のほうれん草の在圃期間は3ヵ月以上である。ところが、暑い季節のほうれん草は播種後1ヵ月以内に採れてしまう。

したがって、味も栄養もきわめて劣る。ある機関の検査では、夏のほうれん草に含まれるビタミンCは真冬のものの20%ほどであるという。

健康により良い野菜、おいしい野菜は時間がかかるのである。

(文責:鴇田 三芳)