第153話 晩秋のカマキリ

百姓雑話

カマキリは戦士である。ある程度大きくなると、鳥以外に敵はいなくなる。巨大な人間が近づいても、こちらを鋭い眼光で凝視し、たやすく逃げたりしない。つかもうとすると、その大きな鎌で攻撃してくる。指をはさまれると、かなり痛い。

カマキリは益虫である。農薬を使わない農業では必要不可欠である。第148話の写真のように、カマキリは害虫をよく食べてくれる。晩秋になると、あちこちにお腹の大きい雌のカマキリを目にする。「よくぞ生き延びてくれた」と感謝の言葉をかけたくもなる。カマキリとアマガエルが農場に住み着いてくれれば、大型害虫はまず問題にならない。本当にありがたい。

カマキリは賢者である。カマキリに顔を近づけると、あの三角顔を左右に振ったり回してこちらをじっと観察する。「こいつは自分より強いか、それとも弱いか」とでも洞察しているのだろうか。そして、じっとこちらを観察していたカマキリが、身の危険を感じると、大きな体にもかかわらす、ぱっと羽を広げて飛んで行ってしまう。負ける戦いはしないのである。実に賢い。

そして、カマキリは孤独である。戦士の宿命かもしれない。春の彼岸頃になると一つの巣からたくさんの赤ちゃんカマキリが四方八方に旅立って行き、その後はずっと単独行動をとる。晩秋まで無事に生き延び、見事に交尾できるのは1パーセントにも満たないであろう。そして、雄は命がけの交尾をする。上の写真は、5年ほど前に初めて目撃したもので、交尾の際、雌に喰われて雄はボロボロになってしまった。人間で言えば、「腹上死」のようである。喰われてしまうことが雄にとって本望なのかどうなのか分からないが、見るからに痛々しい。

男性の中には、「企業戦士として日夜がんばり、家族を養ってきたにもかかわらず、熟年離婚を突然言いわたされた俺みたいだな」などと、カマキリを我が身に重ねる男性もおられるかもしれない。そうなったらきっと、理性を超えた怒りと心痛に襲われるに違いない。人生の大半を否定されるような虚しさにも襲われるだろう。しかし最終的には、訴訟を起こしても勝てる公算がなければ、とても辛いだろうが、これまた戦士の宿命とあきらめるしかない。

晩秋の陽だまりで熱いミルク・ティーを飲みながら、カマキリを見ていたら、あれこれ想いがめぐってきた。そして、改めてカマキリの顔をまじまじと見つめたら、織田信長を連想してしまった。あの鋭い眼光と三角顔。信長にそっくりである。その戦い方も似ている。信長は負けると判断すると、潔くさっさと陣を引いてしまう、そんな戦士であった。そして、末路も何か同じようなものであった。

(文責:鴇田 三芳)