第297話 心地よい風景

百姓雑話

人それぞれ、幸せの感じ方が違う。それは、生い立ちはもちろん、地域や時代、文明や文化、自然環境や気候、経験や学習、経済状況や社会状況、友人関係、そして価値観や宗教観などの影響を受ける。つまりは、人間も「環境の産物」なのである。

インターネット上での人間関係に自分の存在を確認し、そのバーチャル・リアリティにある種の幸せを感じて、スマホを手放せない若者が世界中にあふれている。インターネットという画期的なツールは人類の今と未来を大きく左右している。

その一方で、私のように仮想空間での人間関係にほとんど価値を見出していない人間も数え切れないほどいるだろう。アメリカやフランスの大統領選挙でフェイク情報が人々の冷静な思考と判断を雲らせた事実に注目すれば、インターネット上の人間関係がいかに危ういか想像に難くない。

日本のバブル経済が崩壊したころから、世界的に貧富の格差が大きくなってきた。中国でも近年、IT技術の発展にのって、雨後の筍のように巨万の富を築いた人々が続出している。巨万の富が人の欲望を満たし幸福感を与えるからである。

しかしその対極に、身の丈を超えた富が時には我が身を亡ぼすことを熟知し、つつましい生活に満足し穏やかな日々に幸せを感じている人もたくさんいる。

ああー、今週で8月も終わる。田んぼでは黄金色の稲穂が頭(こうべ)を垂れ風に揺れている。その上を、赤とんぼが群れ飛び、もうじき南方に旅立つツバメがスイスイ飛翔しながら盛んに虫を取っている。車を停め上空を見上げれば、はるか高空で巻雲が秋の到来を知らせている。

私は、毎年この時期に水田を眺めると、生まれ育った実家周辺の景色を思い出す。そして、この心地良い風景は、夏野菜の収穫と秋冬野菜の作付けが重なり目いっぱい働いた夏の疲れを癒し、ささやかな幸せをもたらしてくれる。

無事に今年も猛暑を乗り切れた。感謝。

(文責:鴇田 三芳)