中国では、18日から旧暦の正月を祝う春節が始まる。農村から都市に出稼ぎに来ている人達もいっせいに帰省する。2012年には、春節前後の40日間で、のべ30億人以上が移動すると中国政府が予測していた。他国に類を見ない民族大移動である。中国の1割ほどの人口しかいない日本にとっては、それだけでも中国のパワーを感じないわけにはいかない。
春節は、四千年以上もの歴史があり、中国本土に限らず中華系の人々が住んでいる国や地域でも盛大に祝われるという。もはや中国のお祭りをこえ、世界のお祭りに等しい。
この中国人の民族大移動は春節に限ったことではない。中国人は世界の隅々まで移住し、しっかり根付いている。今から30年以上も前、アフリカ辺境の国ソマリアに難民救援のために日本の若者が行った時、その地に住んでいた日本人は豊田通商の一家族と国連職員の一人だけであった。しかし、中国人のコミュニティーはすでにあり、多くの中国人が道路建設や農業指導などの援助事業に携わっていた。もちろん、中華料理店もあった。
ちなみに、法務省の統計によると2012年末時点で、日本に住む中国籍の人は約65万人で、在日外国人でもっとも多い。その一方で、中国国家統計局によると2010年時点で、中国に住む日本人は約6,600人しかいない。これらの数を両国の人口比で換算しても、中国に住んでいる日本人は日本に住んでいる中国人の1割くらいである。
ところで、他国に住んだことのある人なら体験したことがあると思うが、言語も文化も、そして生活習慣も異なる社会の中でまともに生きていくのは、並大抵のことではない。困惑と不安が日々つきまとい、時には身の危険も感じながら、笑顔の底にも常に用心深さを潜ませておかなければならない。島国育ちの日本人には相当のストレスが加わる。
そんな厳しい試練があるにもかかわらず、膨大な数の中国人が世界中に住んでいる。たぶん、他国に移住した民族の中では、中国人がもっとも多いのではないだろうか。はるか昔、ベーリング海がなくユーラシア大陸とアメリカ大陸が陸続きであった頃、アジアに住んでいた人類が南アメリカの最南端まで移住していったという。いわゆる「グレート・ジャーニー」である。このアジアに住んでいた民族は、たぶん、現在の中国あたりの人たちではなかったろうか。
中国人のバイタリティーは、一体どこから湧き出るのだろうか。島国育ちの日本人には想像しがたい生命力があるような気がしてならない。
その中国が、驚異的な経済発展を背景にして、軍事力を急速に増強してきた。今や、ロシアやアメリカに迫る勢いである。底知れぬバイタリティーと強大な軍事力を持つにいたった中国はアジア諸国にとって脅威となりつつある。
はたして、共産党という「特権階級」は、どんな未来を描いているのだろうか。かつて第一世界大戦を境に、大英帝国からアメリカ合衆国に移った覇権を「次はグレート・チャイナが握る」とでも意図して、軍事力を増強しているのだろうか。中国の民衆までもが「グレート・チャイナ」を夢見て、毎日がむしゃらに働いているのだろうか。もしそうであるなら、東南アジアの未来は悲惨である。
たぶん、ほとんどの日本人はそんな未来を望んではいないであろう。ならば、私たちは何をすべきなのだろうか。あるいは何をしてはいけないのだろうか。
(文責:鴇田 三芳)