第224話 根絶の思想、共存の摂理(2)

百姓雑話

「人類は滅びても、ゴキブリは絶滅しないだろう」という話しを聞いたことがあります。多分そうかもしれません。熱帯地域を中心に世界では約4000種のゴキブリが棲息しているそうで、倉庫にストックしてある糠(ぬか)や畑の草むらでもよく見かけます。

ところで、過去に目を向けると、なぜか人類は他の生き物をたくさん根絶させてきました。巨大な生き物のマンモスから目に見えない微生物にいたるまで、無数の種を地球から抹消してきたようです。天然痘を起こすウイルスも根絶させました。身近な小動物では、トキ、ニホンオオカミ、カワウソなどが日本からいなくなりました。かつてイワシは、獲れ過ぎて食べきれず、粉末化され肥料として農地にまかれました。それが今では、漁獲量が極端に減り、庶民の魚ではなくなりました。ニシンも、です。幼い頃、家の前の小川や水田の水路のあちこちで泳いでいたメダカが今では絶滅危惧種に指定されています。

人間は、人間以外の動物だけでなく、人間自身も抹殺してきました。一族郎党を抹殺せず情けをかけて源頼朝を島流しにした平家は、後に壇ノ浦の海戦で、源氏によって根絶させられてしまいました。また秀吉は、思いもよらず秀頼を授かったことで、後継者の地位に就けていた弟・秀次とその家族や侍女、乳母ら39名全員を抹殺し秀次の血縁を根絶しました。このような凄惨な根絶が世界中で起きてきました。

どうして人類は、根絶の思想を乗り越えられないのでしょうか。

去年から農場関係者で月1回の勉強会を開いていますが、ある時「髪は週何回くらいシャンプーで洗いますか」と参加者に私は尋ねたことがあります。5名中3名が毎日で、1名が1日おきくらい、そして私が4日に1回程度という結果でした。

このような清潔癖は自己矛盾を露呈しているように私には思えてなりません。そもそも私たちは自分の細胞の数よりも多くの微生物を体に住まわせ共生しながら生きています。肌を有害菌から守っているのは常在菌です。日に3回も送りこまれる食料が十分に消化吸収されるのも腸内細菌のお陰です。その大事な常在菌をシャンプーや石鹸で頻繁に洗い流してしまい、インフルエンザに罹ったくらいで抗生剤を飲み腸内細菌を殺ししてしまう。そんな日常行為が果たして健康的なのでしょうか。私から見れば、根絶の思想極まれり、です。

私は農業を営みながら、世間の喧騒から離れた生活を送ってきました。かれこれ四半世紀にもなります。人間よりも、自然の中で生きる生物を見ることの方がはるかに多い日々でした。そこらか学んだことは、「自然界では、根絶という思想よりも、共存という摂理の方がはるかに優勢である」ということです。

今後も一体どれほどの種を絶滅させたら、人間は、根絶の思想を抑制し、共生の摂理に従うのでしょうか。

それとも、高度な知性を持った宿命なのでしょうか。

(文責:鴇田 三芳)