腰痛は、人類が二足歩行を始めたために起きた、宿命のようだ。痔も同じ原因らしい。どちらも、命にかかわるような病ではないが、日常的に悩まされ厄介である。ひどい腰痛になると、心臓病よりも生活の質をずっと落とすことになる。生きている証として心臓は重要視されてきたが、今や人工心臓に置き変えられる。しかし、人口の腰は未だ開発されていない。
ところで、農民にも腰痛持ちがたくさんいる。なかば職業病とも言える。トラクターや田植え機、除草剤などの普及で、腰の曲がった農民は激減したものの、腰痛は相変わらず農民を苦しめている。コルセットやゴム・ベルトで腰を補強したり、症状が悪化し始めると整体院などに通い、どうにか腰痛と付き合いながら、農業を続けている。
幸い私は、農業に就いてから20年以上、腰痛に苦しめられたことがない。年に二度、非常に忙しい5月と9月に腰痛ぎみになるが、念入りにストレッチを行ない、細心の注意を払いつつ、今まで乗り切ってきた。
研修に来られた人にもまず、腰痛に気をつけるよう注意する。それはかつて、研修生に労災保険をかけていた時代、農作業中にギックリ腰になったので労災申請をしたものの、労働基準監督署は労災と認定してくれなかったからである。そもそも腰痛は、他覚症状がない限り、保険の対象にはならないのだと説明された。一般の保険もいろいろ調べたが、同様であった。
些細な動作でも腰を痛めないように気をつけている私から見ると、腰痛のほとんどは本人の不注意から起きているように思える。冒頭に述べたように、人は腰痛になりやすいことを常に意識し、生活習慣や体型、動作などに気をつけていれば、だいたい避けられる。
例えば、重い荷物を床から持ち上げ背後の台に乗せる動作を思い浮かべていただきたい。この単純な動作をする時でも、私はいくつかのことを必ず実行する。まず、その荷物の重心の真上に体の中心を移動し、膝を曲げ、主に脚力で荷物を持ち上げる。その際、腰はできるだけ真っすぐ伸ばしておく。そして体全体を回転し、台にゆっくり置く。たったこれだけのことだが、これが腰を守るこつである。決してやってはいけない動作は、荷物の重心から離れた場所に立ち、膝を伸ばしたまま腕を伸ばし、腰で持ち上げながら腰をひねって荷物を後ろの台に乗せることである。
ちょっとした「うっかり」が人生を左右することがよくある。ギックリ腰などもその一例である。文字どおり、体の要である腰に対して細心の注意を払い、死ぬまで腰痛にならないようにしたいものである。
(文責:鴇田 三芳)