第216話 恵みと脅威

トマト栽培 百姓雑話

関東地方では2月にもっとも雪が降ります。2年前の2月の大雪では左の写真のように20cm以上も積りました。農業を始めてから四半世紀がたちましたが、これほどの大雪はこれを入れても2回しかありません。この時は関東地方やその周辺でビニール・ハウスなどの施設が多数倒壊しました。国が激甚災害と認定し、その建て替えに対し公的資金を助成したくらいです。

例にもれず、私たちの農場も被害が出てしまいました。葉物野菜がつぶれ施設の一部がこわれ、その後の1週間は修復作業に追われました。積雪は、野菜や施設に被害を及ぼすだけでなく、雪が解け畑が乾くまでは何の作業もできなくなるので、非常に困りものです。日が昇り始めると土がぐちゃぐちゃになり、春野菜の作付けどころか、トラクターなどの機械も入れません。

困るのは人間だけではありません。野鳥にとっては、餌が雪に埋もれてしまうため、生死にかかわる事態です。仕方なく、雪に埋もれいないブロッコリーや小松菜などの野菜を手当たり次第に食べますが、鳥は肉食が基本のため野菜の消化吸収は良くありません。それでも、生き抜くために必死なのでしょう。彼らの窮状に同情できるものの、野菜の被害は困ったものです。農民としては、雪害に食害では「泣きっ面にハチ」です。

台風による暴風や豪雨も、大雪に負けず劣らず、甚大な被害を残します。近年、激しい気象現象による農業被害は珍しくなくなりました。毎年一度や二度は必ず発生します。

以前は、このような被害を「仕方ない」となかなか受け入れられませんでした。心身ともに充実し、心が鋭くとがっていたためでしょう。被害にあうたびに、「何くそ」と踏んばってきました。

ところが、ある頃から「もとより自然は恵みと脅威をあわせ持つものであり、恵みだけを得ようとするのは人間の強欲のなせる業かもしれない」と思うようになりました。

気象現象を冷静に見れば、地球という巨大な生き物の、あるいは無数の生命共同体の生命現象のようなものです。科学的に言えば、地球上のエネルギーの偏在を均一化しようとする現象なのです。それによって、地球が無数の生き物たちの命を育めるのです。

近年は、こんな考えから「多少の自然災害は仕方ない。事前に対策していたのだから」と思うようになりました。

(文責:鴇田 三芳)