第223話 作物と土壌のpHについて

百姓雑話

以前、家庭菜園をしていた時に、エンドウやホウレン草、ニンジンの種まき後、ほとんど発芽しない、あるいは生育がうまくいかないことがありました。ニンジンは乾燥に弱いということで種まき後の水管理の失敗、エンドウとホウレン草の2種類は酸性土壌を嫌う代表のようで、土壌pHの問題で発芽しなかったのだろうと推測し、農業の難しさを味わった苦い思い出があります。

作物とpHに関してインターネットで調べると各作物と生育に適したpHの一覧表が出てきます。だいたいの作物の適正pHは6-6.5のようですが、作物によって結構異なります。エンドウ、ホウレン草は高pH作物の代表であるようです。また、pHの変化に寛容な種類とシビアな種類があるようで、エンドウとホウレン草2種はシビアな部類に入るものと思われます。

なぜこのように作物によって、適正pHが違うのか疑問に思い、調べてみました。いくつかのホームページでは、それぞれの作物の原産地の地域差が反映されているということでした。エンドウは古代オリエント地方や地中海地方で麦作農耕の発祥とともに栽培化されたということで、日本へは9から10世紀に広まったようです。原産地が土壌にカルシウムなどが多い乾燥地帯であることから想像できるように酸性土壌にも弱い、とのことです。一方のホウレン草の原産地は、ペルシア地方(現在のイラン)だったと考えられている、とのことです。以上のように、両種とも原産地は中近東地域で元来pHの高めの地域で生まれた品種であるため適正pHが高めである、と推測されます。

一方、日本の土壌はpHが低めで、低pHが作物の生育に影響を与える要因としては、酸性になると溶け出すアルミニウムの害、溶けたアルミニウムがリンと結合してリンの移行阻害、カルシウムやマグネシウムの供給不足、等があげられるようです。

作物はもともと野生にいたものを品種改良してできたものです。三つ子の魂百までではありませんが、生まれた時の特性はそう簡単に変わらないのでしょうか。作物も立派な発明であり、遺伝子組み換え技術などなかった時代に品種改良を進め、身近にあった草木から農作物の品種を作り上げた祖先の偉大さを感じます。

同じマメ科でも枝豆の適正pHは6-6.5です。日本では昔からpHの低い田んぼのあぜ道に植えられたり、あるいは世界で有数の消費量を誇る作物になっていることから、あまり土地を選ばずどこでも育つ作物であると考えられます。逆にある程度栽培しやすく、どこでも作れるので世界で主要な作物になり得たのでしょう。

植物とpHの関係で興味深い話としてご存じの方も多いかもしれませんが、アジサイの花の色が土壌のpHによって変わるという現象があります。酸性になると土中のアルミニウムが溶け、植物に吸収され、アントシアニン系色素と結合して青色に発色します。逆に、アルカリ性では土中のアルミニウムが不溶化し、植物に吸収されないと、ピンク色となります。だから、土を酸性にすれば青い花になり、中性~弱アルカリ性の土壌ではピンクの花になるという仕組みのようです。

このようにpHと植物の関係は奥が深く、作物の栽培に重要な条件です。皆生農園では、5つに分かれている畑ごとの特徴を把握して、作付けが行われています。当然私のように、芽が出てこないということはありません。昨年秋、エンドウはpHの高めの畑に種まきを行いました。そして写真のように立派に発芽しました。4月、5月になるとエンドウの収穫時期になります。お味噌汁などでいただくエンドウの歯ごたえと風味を味わうのが今から楽しみです。

(文責:塚田 創)