第214話 リスクとリターン

百姓雑話
凍てつく厳寒の中、タンポポの花が咲いていました。

ハイリスク・ハイリターン。IT革命が広く行きわたった頃から、日本でも広く言われるようになりました。そして今や、私たちの生き方に影響を与えているだけでなく、生活そのものにも直結しています。端的な例はガソリン価格です。ハイリスク・ハイリターンの投機先として世界中にだぶついた資金が原油市場に出入りした結果、需給関係による価格形成以上に原油価格を大きく変動させています。

ところで、私たちの職業をこの「リスクとリターン」という観点から捉えると、少なくても4つのタイプが見えてきます。上記の「ハイリスク・ハイリターン」の他に、「ローリスク・ローリターン」、「ローリスク・ハイリターン」、「ハイリスク・ローリターン」です。

私の職業である農業がどのタイプかと考えると、迷うことなく、ほぼ例外のない「ハイリスク・ローリターン」と思えてなりません。とにかく、リスクが大きい。それでいて、リターンは非常に小さい職業です。ローリターンならまだしも、マイナスリターン、つまり人件費も出ない赤字になる時もあります。四半世紀ちかく挫折せずに続けてきた私でも、「こんな事じゃ、やってられねーなー」とぼやいたことが何度もあります。

例えば、豊作になっても凶作になっても、どちらにしても喜べない現実が厳然と存在します。昔から「豊作貧乏」と言われてきたように、いっぱい採れると市場価格が暴落します。キャベツや白菜などの大型野菜の場合、中身の野菜の売り上げよりも、それを入れる段ボール箱代と流通経費の方が高くつき、収穫すればするほど赤字になってしまいます。ただ働きどころか、消費者と流通業者にお金を払って野菜を提供しているようなものです。

その一方で、凶作になると価格が暴騰します。暴騰したところで、たかだか2倍くらいになる程度ですが、消費者からは「農家は儲かっていいわよねー」と言われたりもします。そもそも、野菜がろくに採れないから高騰するのであって、単価が2倍になったからといって、売上高が2倍になる訳ではありません。まさに、「前門の虎、後門の狼」です。

さらに、台風や異常気象の影響をもろに受けます。今さら言うまでもなく、農業は自然相手の職業で、日々の歩みの足元には落とし穴がたくさん潜んでいます。

こんな職業のため、何十年も行政が補助金などで支援してきても、やる気が失せた農家の離脱を止められませんでした。

余談になりますが、ある大学の先生が農学部の学生たちを私の農場に連れてきたことがありました。その先生は、私に有機栽培の工夫をいろいろ問うこともなく現場の苦労を聞くでもなく、学生さんに有機栽培の良さをとくとくと説き、農家になること勧めるばかりでした。そのため私は、「そんなに有機農業が良くて、学生さんに勧めるのなら、先ずはアナタが先生を辞めて農家になって模範を示したらどうですか」という趣旨の無駄口を叩いてしまったことがあります。もちろん、農業指導で喰っている先生が、安定した職を捨てて、ハイリスクな農業に身を投じることなど有りえないと承知の上ですが。

結局のところ、日本農業の衰退を一言で言えば、「喰っていくのが難しいから」に尽きてしまうのです。この点の改善と農地売買の自由化が実現しない限り、日本の農業が復興することは、先ずありえないでしょう。

(文責:鴇田 三芳)