経済大国になった頃から、衛生上の理由もあってか、日本では何でもかんでも野菜をビニール袋に入れて売るようになった。世界的には、この売り方は特殊である。昔は、小松菜やほうれん草などの葉物も、袋に入れないで、ただ束ねただけの状態で売られていた。
ところが近年、スーパーに行くと、大根やキャベツはもとより、ジャガ芋や玉ねぎ、胡瓜やトマト、ピーマンや人参、さらには長ねぎなども裸でばら売りされている。レタスが、ビニールでラップされずに、そのまま皿に載せられ売られているのも珍しくはない。年々増えつつあるこの傾向は、一人住まいや少人数の世帯が増えたことも関係しているのだろうが、資源の節約と労働コストの削減からも、歓迎すべき商慣行である。
この販売方法が可能になったのは、ビニール袋に入れず裸売りしても鮮度の落ちにくい品種が開発されたことも一因である。業界用語で、「棚持ちが良い」と言われる品種である。人参で言えばT種苗会社の人参が、大根では青首大根が20年ほど前に市場を席巻した。どちらも、肉質が硬く皮がしっかりしていて水分が逃げにくいために、ビニールに入れなくても、棚持ちが良く鮮度が落ちにくい。また、硬いので輸送中に割れにくい。さらに、出荷段階で大きさが揃うので、販売価格を統一しやすい。実に生産者や流通・販売業者にとっては都合の良い品種である。
消費者は、「鮮度が落ちにくい」と言われると、何か良いことかと思うかもしれないが、必ずしもそうではない。上述の人参や青首大根は硬くて、食べにくい。また、この棚持ちの良い人参が当たり前になってから、おもな人参は人参らしい味や香りが薄れ栄養も減ってしまった。また、青首大根は、大根らしい辛みが少なく淡白な味で、肉質が荒くなった。すでに、このタイプの人参や大根が普及し、ほとんどの消費者は違和感を持たなくなってしまったようだ。
ねぎや胡瓜も同じである。ねぎは、強風で折れないように、やはり硬い品種が主流になってきた。今や冬ねぎでさえも硬い。また胡瓜は、本来、表面にブルームという白い粉がふく。胡瓜を守るためのものだが、農薬と間違えられるので、カボチャなどの苗の根に胡瓜の芽を接ぎ木するようになった。この方法によって、皮がピカピカになるだけでなく、根が強いために収穫量が増え、土に由来する病害虫に強くなった。それでも、一般の胡瓜は農薬を何十回もかけてある。生産者にとっては良いことずくめの栽培方法だが、残念ながら、胡瓜本来の味や食感が変化してしまった。
これらは、ほんの一例である。ほとんどの品種改良は、生産者や流通・販売業者の都合やメリットが優先された「勝手な押しつけ」であり、消費者のことなど基本的に配慮されていない。遺伝子組み換えの農産物も、もちろん、同じ発想から開発された農産物である。
世の中は、消費者を「お客様」と呼び、あたかも敬意を払っているかのようなビジネスが当然となっている。しかし、その言葉の裏では、ほとんどの場合、上述の例のように、・・・・・・・・・がまかり通っている。
できれば少しでも、こんな流れに私は抗したい。
(文責:鴇田 三芳)