第203話 三度菜

百姓雑話

聞き慣れないかもしれないが、インゲンを「三度菜」と言う地域がある。温暖な平地であれば、栽培できる時期が年間3回あるためらしい。この辺りの露地栽培では、梅雨の時期、晩夏、そして秋に収穫でき、その期間は1ヶ月くらいのため、その度に種をまかなければならない。

ところが、条件が良ければ一度種をまくだけで、梅雨の時期と秋の2回実が採れる。梅雨時に収穫したにもかかわらず、蔓(つる)が枯れず夏を越し、秋にまた新しい葉が出て花が咲き始める。梅雨時ほどは成らないが、野菜の種類が少ない秋にそこそこ採れるので、非常にありがたい。

インゲンはマメ科の植物で、大豆や空豆、エンドウなどの仲間である。マメ科の野菜はさまざまな環境下で生育していて、その生態の幅が広い。インゲンは乾燥と高温に弱いが、大豆のように高温にも乾燥にも強いもの、空豆やエンドウのように冬を越さないと花が咲かないものもある。私が知る限り、この地域で広く出回っているマメ科の野菜は、すべて草性で、1年以内に実をつけ枯れてしまう。枯れる原因はいくつかあるが、いずれにしても、何年も枯れずに実を毎年つけるようなことはない。

ところが、マメ科植物の中には、アフリカなどの乾燥地帯に自生するアカシヤのように、大木になる常緑樹もある。また、その中間的な植物もある。5月にきれいな花を咲かせるフジがある。木とも草とも言い切れない蔓性の植物で、落葉して冬を越し、毎年花を咲かせ実をつける。

話しをインゲンに戻そう。同じような蔓性のフジやクズが猛暑でも立派に茂り冬を越せるのに、なぜインゲンが越せないのか。なぜインゲンは1ヶ月ほどで収穫が終わってしまうのか。それがインゲンの本性か、それとも環境要因によるのか、あるいは人為的な原因なのか。

私は、これらの疑問を胸に何年もじっくり観察してきた。原因としてまず挙げられるのは、病気、害虫、高温、空気と土の乾燥、強風、そして「インゲンは1回、1ヶ月しか収穫できない」という思い込みである。

しかし、いろいろ試行錯誤を繰り返すうちに、最大の原因は土と根にあるという結論にいたった。「盛夏を越せるような土壌環境と強靭な根が不可欠である」という結論である。気づいてみれば、ごく当然なことであった。

(文責:鴇田 三芳)