第210話 長い旅路の先

百姓雑話
凍てつく厳寒の中、タンポポの花が咲いていました。

厳しく冷え込み、大地一面が霜に覆われている。そんな早朝、農場に入る道端に目をやると、タンポポがひっそり咲いていた。特に日当たりが良い所ではないのだが、たくましく花を咲かせる姿に強く心をうたれた。他の草に負けないこの時期に、あえて咲いたのかもしれない。春になれば、きっと強い南風に吹かれ、たくさんの種をまき散らし、また命をつなげるのだろう。

還暦を過ぎた私にとって冬場の農作業は、正直、辛い。露地栽培は時に過酷である。そんな重労働に疲れホッと一息ついた時など、「自分はどうして今ここにいるのだろうか」と思うことがある。真冬の澄み切った夜空を見上げ、何万光年もの遥かかなたから届いた星々の輝きを眺めると、「悠久無辺の宇宙の片隅に今こうして生存しているのは偶然なのだろうか、あるいは必然なのだろうか」と想いをめぐらすこともある。いろいろなことを想像すればするほど自分があまりにもちっぽけな存在であることに気づき、命の不思議に圧倒されてしまう。

人類のルーツはアフリカのサバンナにあるという。数百万年前にかの地で生まれた人類の祖先は、猛獣から身を守り飢えと病に耐え黙々と大地を歩み、時には、あらぶる大海を星座に導かれ命がけで渡り、長い旅路のはてに世界の隅々まで行きわたった。

そして今からも、もし恐竜のように絶滅しなければ、人類のグレート・ジャーニーは続いていくのだろう。その地は月や火星になるかもしれない。あるいは、母なる地球を離れられず、放射能に汚染されていない地中か海底に移り住むかもしれない。

そのような連綿とつながる命の連鎖の、ほんの一瞬に今の人類は生きているのだろう。この数十億もの命の先にいる、長い旅路の先の人たちは一体どうなっているのだろうか。

(文責:鴇田 三芳)