第285話 一寸の虫にも一寸の魂

百姓雑話

テントウムシ初夏ともなると、いたる所が虫、虫、虫だらけである。この頃は、アブラ虫を食べて繁殖したテントウ虫をたくさん見かける。ビニール袋を携帯し、テントウ虫を捕獲するのが日課になっている。その気になって10分も探すと、写真のように数十匹は簡単に集められる。

ピーマンやトマト、ナスなどの果菜類のアブラ虫対策には、テントウ虫が欠かせない。これらの野菜は防虫ネットを張ってアブラ虫を防ぐのが難しいからである。アブラ虫を食べる虫は、テントウ虫の他にも、アブラバチ、ヒラタアブ、クサカゲロウなどがいるが、これらは捕獲しにくいので、もっぱらテントウ虫を捕獲する。

農場から自宅までの間に水田地帯がある。そこを通過する時は、水田で大量発生した虫が行く手を遮るかと思えるほど飛んでいる。数千キロも離れた南方から数10gのツバメが命がけで渡ってくる理由が容易に理解できる。

ゴキブリやハエは野菜くずの捨て場や肥料置き場でよく見かける。これらを見ても私は、特に驚くこともなく、汚い生き物とは思わない。もちろん、殺さない。腐った物や糞を食べて命を綿々とつないできたハエは尊敬に値する。

例年のごとく先月中旬から、ついにヤブ蚊が吸血し始めた。どんな虫も決して意図的に殺すことはない私だが、しかし、害虫とヤブ蚊は別である。ヘラヘラと変則的に飛ぶヤブ蚊を空中でパチンと仕留めるのは老化防止に役立つと思っている。

コンクリートで覆われた都会では人目につかないムカデもよく見かける。屋外だけでなく、作業場でもときどき遭遇する。すでに今年は2回、朝がた作業に取りかかろうとしたら、野菜を洗うシンクに落ちてもがいていた。シンク台に上るくらいだから、かなり大きい。どちらのケースも20cmくらいのムカデだった。この状況を見た時、宮沢賢治の銀河鉄道の一節を思い出した。それは、サソリがイタチに見つかって食べられそうになり、逃げる途中で井戸に落ち溺れ始めた時に言ったことである。

『ああ、わたしはいままでいくつのものの命をとったかわからない、そしてその私がこんどいたちにとられようとしたときはあんなに一生けん命にげた。それでもとうとうこんなになってしまった。ああなんにもあてにならない。どうしてわたしはわたしのからだをだまっていたちに呉れてやらなかったろう。そしたらいたちも一日生きのびたろうに。どうか神さま。私の心をごらん下さい。こんなにむなしく命をすてずどうかこの次にはまことのみんなの幸(さいわい)のために私のからだをおつかい下さい。』

ムカデは、刺されないように気をつけながら、外に逃がした。

(文責:鴇田 三芳)