第221話 量と質

百姓雑話

今月5日、ジャガ芋を植えました。ジャガ芋は、一年中必要とされる食材で、家庭菜園での定番野菜です。芋を植えるだけで、結構やせた土でもほどほどに採れる関係か、一般的には栽培が簡単と思われています。

しかし、販売を目的に栽培するとなると、話しは別です。一応プロともなれば、一定以上の品質をクリアしながらも、より多くの生産量をあげなければならず、さほど簡単ではありません。できるだけ収穫量を増やそうと思い肥料を効かせ過ぎると、味が悪くなったり内部に空洞や腐れが発生してしまいます。その対策として土に入れるカルシウムを増やすと、芋の表面にソウカ病という病気が発生しやすくなります。このように、量と質のバランスをとるのが難しく、まして農薬を使わないとなると、さらに難しさが増します。

農業に限らず、ほとんどの産業で製品やサービスの量が重要視されます。まずは「生産量」とか「販売量」が業績の指針として必ず把握され評価もされます。これらから生み出される収益も、やはり量的なものです。その一方で、生産物やサービスの質を第一義的に評価する組織や人は決してメジャーではないでしょう。

今世紀に入り、破竹の勢いで中国はGDPを急伸させてきました。あっと言う間に、日本を抜き去り、「世界の工場」とまで称されています。この過程で中国がもっぱら追求してきたものも、やはり「量」でした。「量を伸ばすのであれば何でもあり」という状況で、海外の有名な製品のコピーや紛らわしい商標がまかり通ってきました。

かつてホンダやソニーは、日本を代表する企業として、世界にその名をとどろかせました。どちらも、最先端の製品を開発し、世界市場に確固たる地位を築きました。

しかし、今ではどうでしょうか。ホンダは、世界的な自動車メーカーとして今でも君臨し、最近では悲願の小型ジェット機も販売しました。その一方で、電子機器を売り物としていたソニーは今や見る影もありません。

何がこの差を生じたかと言えば、「飽くなき質の追求を続けたホンダと、それを怠り安易な方法で利益を出してきたソニー」という違いではないでしょうか。

私たちは、頭ではわかっていても、ついつい生産量を伸ばし販売額を高めることに埋没してしまいます。すると結局、生産物や労働の質が低下しやすく、いずれは経営危機に直面します。

そんな戒めを胸に、今年もジャガ芋を植えました。たかがジャガ芋、されどジャガ芋、なのです。

(文責:鴇田 三芳)