第222話 根絶の思想、共存の摂理(1)

百姓雑話

畑の菜の花今月5日は啓蟄(けいちつ)、そして今日は春分の日です。歳を重ねるたびに、冬がとても長く感じられるようになり、「やっと春が来た」という気がします。春を感じて畑では、菜の花にミツバチが既に現われ、先週はモンシロチウが1匹初見されました。羽を生やしたアブラ虫も飛び始めています。春の到来は、とりもなおさず害虫との闘いの始まりでもあります。

ところで、今回はゴキブリから話しを起こしましょう。ゴキブリに対する反応は国や地域によってさまざまでしょうが、ゴキブリを好きな日本人は、多分いないでしょう。ほとんどの人が忌み嫌い、見つけたら悲鳴を上げたり殺虫剤をかけるに違いありません。ゴキブリや蚊、ハエにとどまらず、家の中で見かけた虫という虫をたちどころに殺す人が大半ではないでしょうか。

わが家でもそうです。私は蚊以外の虫が家の中にいても気にしないのですが、妻や子どもたちは、どんな虫に対してもキャーキャー騒ぎ、すぐさま殺虫スプレーで殺します。

何でそうまでするのか、率直に言って、私には理解できません。目の前から虫を抹殺するために有毒な殺虫剤で部屋を満たすのが良いのか、特に危害を加えるわけでもない虫など放っておくほうが良いのか。虫たちには何の罪もまく、理性的に考えたら迷わず私は後者を選びます。そして、外に逃がしてやります。

田舎の農家に生まれ育ったため、私はたくさんの生き物と暮していました。犬や猫、鶏や牛馬などの家畜はもちろん、食料を食べるネズミやそれを食べにくるヘビもよく見かけました。虫たちにいたっては名前を挙げたらきりがないくらいです。

その虫たちのなかには、もちろん、ゴキブリもいました。夜中に喉が渇き台所に水を飲みに行くと、洗い場の生ごみやその周辺に数十匹のゴキブリが群がっていました。日中は一体どこにいるのかと思うくらいの群がりように、初めて見た時は驚きました。宮崎駿氏の「となりのトトロ」に出てくる「マックロクロスケ」のようなものです。余談ですが、もしかすると、氏はゴキブリからヒントを得たのかもしれませんね。

今では家の中にゴキブリがウヨウヨいるのは珍しいかもしれませんが、当時はどこにでもある光景でした。家族の者は皆、ゴキブリに気づいていても誰も騒がず、食べ物だけはしっかり隔離しておきました。もちろん当時は、屋内で使うスプレー式の殺虫剤などはなく、ただただ放っておくしかなかったのでしょう。今から思えば、仕方のない共存だったのかもしれません。

(文責:鴇田 三芳)