第293話 3つの不思議

百姓雑話

農場の上空を羽田空港に向かうジェット旅客機が頻繁に通過する。特に南風の時は、北から羽田に向かう便だけでなく、北以外の方角から来た便も当地の上空で急旋回し南方の羽田に向かう。着陸の際は、十分な揚力を得るために風に向かって空港に侵入するためである。

何十トンもあるジェット機がどうして空を飛行できるのだろうか。これが一つ目の不思議である。理屈は学校で教えてもらったのだが、感覚的にどうもスッと腑に落ちないのである。水中ならまだしも、こんなにも軽い空気が巨体を浮かせるなど、とてもとても納得がいかない。この不思議の延長線上に風車がある。あんな幅の狭い羽根がゆっくり回ったくらいで、どうして大きな力を生むのだろうか。さらに、この風車の不思議の延長線上に、「ソーラー・パネルのように、なぜ各家庭の屋根の上に風車が設置されていないのだろうか?」と不思議である。

二つ目の不思議は生物である。仕事柄、常に生き物に接しているので、今さら不思議というのも少々気恥ずかしいのだが、とにかく生物は不思議の宝庫である。例えば、遺伝子レベルでの基本構造や生理機能は同じでも、実に多くの種類の生き物がいる。それを「種の多様性」と言うのだろうが、そんな風に一言で言ってしまったら、まるで学校の模範解答のようで、思索がその先に行かない。

半世紀ほど前、中学か高校で「熱水の中では生物は生きていけない。ゆで卵のようにタンパク質が変質するから。」と教えられた。また、「塩分濃度の高い水の中でも生物は生きられない。塩水の浸透圧が生物の体内のそれよりも高いからである。」とも確か教えられた。しかし、その後、高温の温泉にも、塩分濃度が非常に高い塩湖でも微生物が見つかっている。さらに、地中深くの岩石の中にも微生物が生息していることが確認されている。何と生物は逞(たくま)しいのだろうか。不思議でならない。

そして、不思議の極めつきはビッグ・バンである。

30年ほど前、砂漠地帯の難民キャンプで仕事したことがある。水道も、ガスも、電気もない世界で暮らした。日本とは対極の世界である。そこでは、月の出ていない夜でも、天空を埋め尽くす星々の灯りで足元が見えた。天の川は、点々とある星々ではなく、まさに雲のように川のように、無数の星々の集団であった。

今は悠久無辺のような宇宙だが、138億年ほど前のビッグ・バン以前は人間の一つの細胞よりも小さい、何も物質が存在しない状態であったという。凡人にはとても信じられない。不思議である。

(文責:鴇田 三芳)