政府は異例の金融緩和を続けています。他人にお金を貸すと、利子をもらえるどころか、逆にお金を取られるような政策が、貨幣経済が浸透して以降、一度たりともなかったように思います。何かこの政策は、有史以来はじめての人口の自然減に似ていませんか。
政府は民間企業に対して、「この金融緩和によって資金を調達しやすくなったのだから、どんどん設備投資をしてくれ」とはっぱをかけています。しかし現実は、「笛吹けど踊らず」といった状況が続いています。どうも政府は、戦後の廃墟から奇跡の経済復興を遂げた成功体験がいまだに忘れられないのでしょうか。
時代は激変してしつつあります。産業革命をはるかに超えた激変かもしれません。もはや過去の延長線上に未来は拓けず、過去の経験や行動・思考パターンでは、この激変を乗り切れないでしょう。
そんな時代状況にあって、いったい何に投資をしたら良いのか、大方の企業家は躊躇しているのではないでしょうか。
実際、あっというまに過剰投資になってしまった中国を引き合いに出すまでもなく、投資の減退は世界規模で進んでいます。そのため、世界的な金融緩和政策によって溢れ返った資金は、企業の生産活動に投資されるどころか、土地や建物などの不動産、石油などの天然資源、あるいは為替や株式などの金融市場へ投機されるばかりです。
私が身を置く農業分野では、かれこれ30年以上も前に投資の減退が始まっていました。日本の農業において設備投資と言えば、おもに機械と施設です。機械は、トラクター、田植え機、コンバイン、貨物車両などです。これらのほとんどが既に買い替え需要しかありません。新規就農者がきわめて少ないからです。その買い替え需要さえ、子どもの代が農業を継がないケースが大部分で、微々たるものです。
施設も同様で、ハウス建設ももう頭打ちです。2年前の大雪で、関東甲信越でたくさんのハウスが倒壊し、補助金が付いたこともあって、昨年は建設ブームに沸きました。しかし、これは一過性の需要です。
そもそも農家にとって、ハウス栽培の経済的利点はもはや過去のものになってしまいました。その一例がトマト栽培です。トマト栽培のほぼ100%はハウス栽培ですが、石油で暖房して寒い時期に出荷しても、昔のような高値はもうつきません。出荷金額でトップ野菜のトマトでそのような状況ですから、他の野菜は推して知るべし、です。
こんな状況が続くのに、大きなリスクをとって投資する農家が一体どれほどいるでしょうか。
(文責:鴇田 三芳)