第234話 アブラムシとテントウムシ

百姓雑話

農園において一大害虫の一つであるアブラムシ。作業の多くの時間をアブラムシ対策につやしています。一言でアブラムシといっても緑色のもの、黒いもの、黄色いもの等様々な種類がいいます。アブラムシの多くの種は、環境条件に応じてこの単為生殖(メスのみで増殖)と有性生殖(オスとメスの交配による増殖)を切り換えることができます。春から秋にかけてメスのみで増殖し(卵ではなく、仔を産む)、ある種類の繁殖力を調べた研究によれば、10日前後で成虫となり、寿命も約40日と短いが、その一生を終えるまでに90匹もの子を産んだといいます。アブラムシ1匹で、1か月では18293匹にまで増えることができる計算となるようです。単為生殖世代では、羽根のない個体として増殖しますが、個体数が増えすぎて成育環境が悪化すると、羽根の生えた個体を生じ、飛行して移動し、そこで単為生殖を再開します。越冬する直前に雄が現れ、メスと交尾をして卵を産み、越冬します。このようにアブラムシは、環境の変化に応じて変幻自在にさまざまな表現型の個体を産出する能力を持ちます。

今までただの害虫としてしか見ていなかった彼らに奥深い生態があることを知り、自然界の偉大さを感じる次第です。彼らへの疑問は次々に湧いてきます。何種類くらいいるのか、色の違いは何を意味するのか、1日にどのくらいの樹液を吸うのか、1日にどの程度移動するのか等々。これからは彼らを作物で見つけても処分できなくなりそうです。そこは農作物の出来不出来にかかってきますから切り離して作業しなくてはなりませんが・・・・・・・

ところで、畑で作業をしているとしばしば見かけるナナホシテントウムシに癒されます。かわいげな外見で人々を癒してくれますが、彼らはアブラムシを食べる肉食性です。農園ではアブラムシ対策としてテントウムシを集め、アブラムシが多い場所に放っています。果たしてその効果がどれほどのものであるのか、彼らがどのくらいのアブラムシを食べるのか疑問に思い、調べてみました。そうすると過去に発表された論文がありました*。きっと数えるのは大変だったことと思います。頭が下がります。まず彼らの成長過程ですが、成虫は一度に10から40個の卵を産み、卵→幼虫→蛹→成虫といった過程で成長します。幼虫期は4つのステージに分かれ、卵から幼虫を経て蛹になるのに15日間要するようです。

以下の表がそれぞれのステージの日数、1日のアブラムシ捕食数、トータルの捕食数を表します(*より引用)。

1日の捕食数 全捕食数
1令虫 3.7日 約1匹 4.95匹
2令虫 2.56日 約4匹 9.6匹
3令虫 3.36日 約8匹 27.15匹
4令虫 5.38日 約18匹 100.22匹
成虫 約40日 約20匹 700-800匹

(*よりデータを引用し表を作成。)

このようにナナホシテントウムシは一生涯に1000匹のアブラムシを捕食するようです。寿命が50~60日ということで約2か月の一生の中で、平均して毎日20匹あまりのアブラムシを捕食する計算になります。アブラムシが群れをなしているところを見ると1匹放ったところで、1日20匹しか食べないのであれば除虫効果は知れている気がしますが、生涯に1000匹食べるとなるとそれなりの効果があるようにも思います。

農園で関わる生物の全てにそれぞれのストーリーがあります。本当に知らないことだらけで学ぶことは無限です。

(*)三浦正・西村繁(1980)テントウムシの発育と捕食活動島根大農研報14:144-148,

(文責:塚田  創)