今年の秋は暖かい日が続いてきました。それが先週の木曜日には、夜来の冷たい雨が朝から雪に変わり、5cm以上も積もりました。収穫まっ最中の春菊はほぼ全滅。寒さに強いホウレン草までもが部分的に腐ってしまいました。気象庁の長期予報どおり、ラニーニャ現象の影響で今年は寒い冬になりそうです。
厳しい寒さは、野菜に被害を及ぼすだけでなく、体にも相当な負担をかけますが、その一方で、露地野菜をグンとおいしくするメリットもあります。寒さに耐えようと、栄養と甘みをたっぷり溜めこむためです。
冬野菜の定番は何と言っても、ホウレン草や小松菜、春菊や白菜、葱などの葉物類と、大根や蕪(かぶ)、人参や里芋などの根菜類です。今ではほとんどの野菜を一年中食べられるものの、やはり旬の時期にとれる野菜が、栄養豊富でおいしいだけでなく、手ごろな値段で買えます。さらに何よりも、体がそのような野菜を求めています。
数ある冬野菜の中でも、ホウレン草が一番食べられていると思います。ビタミンやミネラルなどの栄養素が豊富に含まれ、料理の幅があり、味にあまりくせがないためです。まさに、ホウレン草は国民的な葉物野菜です。
ところが、そんな国民的な野菜であっても、良いホウレン草の見分け方を知らない消費者が意外に多いような気がします。自前の野菜を対面販売していると、春の彼岸を過ぎる頃には「もう味が落ちましたね」と言って買わなくなる常連さんがおられます。その一方で、夏場でも「ホウレン草はないんですか」と尋ねられる一元さんもおられます。暑い時期のホウレン草は、栄養が格段に落ち甘みがなく、ピリピリとした灰汁(あく)もはっきりわかるので、私は栽培しません。
さて、では良いホウレン草はどんなものか、です。まず、葉は大きくて厚く緑色が濃いもの。ホウレン草に限らず、小松菜や春菊などの緑色葉物野菜も同じです。葉が小さく色も厚みも薄いホウレン草は、短期間でヒョロヒョロとモヤシのように育ったので、当然のことながら栄養と甘みの蓄積がほとんどありません。基本的に、良い野菜は時間をかけないとできないのです。
次に大事な特徴は、一本のホウレン草から多くの葉が出ていること。このようなホウレン草は、一本一本のホウレン草の間隔(いわゆる「株間」)が広くとられているので、光をたっぷり受けゆっくり育ったものです。写真のように、地面にそって葉を広げているホウレン草が理想です。おいしいチヂミホウレン草はこのように栽培します。
ここで余談ですが、農家はもちろん、このようなホウレン草が良いことは知っています。しかし、販売用にはまず作りません。一言でいえば、儲からないからです。面積あたりの本数を多くすると、つまり株間が狭くなるように種をまくと、収穫量が多くなるとともに、互いに競い合って葉が上に伸びるので収穫と袋詰めが楽にできるからです。
これら2つの特徴から、袋に同じ重さのホウレン草が入っていれば、本数の少ない方がまず品質的に優れていると考えて間違いないでしょう。そして多分、そのような品質の優れているものを作る農家は農薬の使用量も少なくしていると想像できます。
最後に、もう一つの特徴をあげるなら、根とその上の茎の部分がより赤いものをお勧めします。
(文責:鴇田 三芳)