第263話 養豚場(1)

百姓雑話

自宅から農場に行く途中、大きな養豚場がある。その近くに農場を借りてから20年ほど経つが、すでに当時からあった。風向きによっては、1km以上も離れた農場付近にも異臭が漂ってくる。周囲には民家や事業所があり、きっと異臭に悩まされ続いけてきたのだろう。噂では、近くにあったラーメン店が、異臭で客入りが悪く、つぶれてしまったようだ。

この横を通る時、私はいろいろなことを思う。

昔、学生の頃、「ドナドナ」というフォーク・ソングがよく流れ、私もよく歌った。

「On a wagon bound for marketThere’s a calf with a mournful eye. High above him there’s a swallow Winging swiftly through the sky. How the winds are laughing They laugh with all their might Laugh and laugh the whole day through And half the summer’s night. 」

と歌いだす。子牛が市場に連れていかれ、売られてしまう内容だ。

くだんの養豚場からもマルマル太った豚がトラックに満載され運ばれていくのを時々見かける。その「ブヒー、ブヒー」という鳴き声が何を意味しているのか想像すると、時には胸が締めつけられる。

私の主観や感傷はどうであれ、養豚場や養鶏場などを冷静に見つめると、人間の本性や社会の暗部がいくつも浮かび上がってくる。それは例えば、民主主義が内包する根本的な矛盾や問題、アメリカ合衆国の建国の歴史、世界の食糧事情、イギリスのEU離脱、・・・・・・・・・・。実に多岐にわたる。

今日は元日。肉料理がたっぷり盛られたおせち料理を召し上がっておられる方々が大多数であろう。その食欲をそぐようで今話ではこれ以上あえて言及しないが、肉料理が食卓に上るままでの過程に少しは想いをはせ、その根底にある人間の本性や社会の暗部を読者各位も考えていただきたい。

今話もまた、いつもどおりの「かた苦しい」内容に終始してしまった。何はともあれ、健やかな日々をお過ごしあれ。

(文責:鴇田 三芳)