第272話 毒は毒をもって・・・・

百姓雑話

何年かぶりに、先月の中旬インフルエンザの症状が現れた。寒さで体が冷えきったのが原因らしい。帰宅後すぐに風呂で体を十分温め早寝したために、翌日の午後からはいつものように働くことができた。私は免疫力が高いためか、発病しても少し休んでいれば、速やかに回復する。

しかし、逆にこれが問題になることもある。免疫系の防御反応が強すぎて、40年以上も前から花粉症に悩まされてきた。スギの花粉の飛散がピークを迎えつつある今日この頃、もう地獄のような日々が続いている。毒を制すべき免疫系が、私の場合、時には毒になってしまうのである。

ところで、私の兄は若い頃から酒好きだった。「どうして毎日そんなにも酒をのむのか」と訊いたところ、「アルコールで体を消毒しているんだ」と屁理屈をこねた。確かに、アルコールは強力な殺菌剤である。くわえて、アルコールは揮発するのが早いので、農薬の代わりに、私は発病した野菜の苗に水で薄めたアルコールをかけたことがある。

しかし、これにも問題があり、すぐに止めた。アルコールはほとんど相手を選ばすに殺菌するため、植物に共生している無害か有用な菌までも殺してしまうからである。

農薬(殺菌剤)も、アルコールと同じで、植物に共生している無害か有用な菌までも殺してしまう。

人類は、今から90年ほど前に、アオカビが作り出す極めて強力な殺菌剤を見つけ出した。ペニシリンという抗生物質である。画期的な医薬品として、本当にたくさんの命を救った。その後も次々に新しい抗生物質が見つけ出され、今や抗生物質を使わない医療など考えられないくらい、医療現場では常用されている。そればかりか、家畜の餌にも混ぜられている。

しかし、これもまた大きな問題がある。抗生物質を飲むと、先のアルコールと同様に、胃腸に共生している無害な菌や有用菌まで殺してしまうようである。今から20年ほど前に、私は1週間もの間激しい下痢に悩まされた経験がある。医師に処方された抗生物質によって胃腸内の微生物が大量に死滅しことが原因だった。

このように、過剰な免疫力もアルコールも農薬も、そして多くの医薬品も基本的には毒なのである。

(文責:鴇田 三芳)