今年の春は、アブラ虫の付いた野菜がきわめて少ない。越冬ブロッコリーのごく一部に寄生したくらいだ。カラスノエンドウやハコベ(いわゆるペンペン草)の先端には例年ビッシリ付いているのだが、これらにも寄生していない。
この状況を見て、研修生のT君は「良かったですね」と安堵した。
しかし、「困ったもんだ」と私は応えた。確かに人間にとっては、とりあえずは良い結果だが、もっと長いスパンでトータルに見れば、良い結果とは必ずしも言えない。なぜなら、自然はそんなに単純ではないからだ。
私が常に警戒している害虫は、アブラ虫、ヨトウ虫、そしてセンチュウである。前の二つの害虫は同じような時期に発生し増殖する。通常は、秋に大発生し、成虫や卵、蛹(さなぎ)で越冬し、また翌年の春に増殖する、というパターンを繰り返す。
ところが、去年の晩夏から初秋にかけて雨の日が続いたために、秋の発生が限定的であった。その影響が後を引き、今春も少ないと思われる。
アブラ虫は、植物の樹液を吸い、急速に増殖する。そして、テントウ虫などの餌となり、そのテントウ虫などの昆虫は鳥などの餌になる。いわば、原野に生きる動物の食物連鎖の底辺にアブラ虫は位置している。したがって、アブラ虫が少ないということは、それを食べる虫たちにとっても受難の時なのである。
テントウ虫の幼虫は食欲旺盛である。その幼虫が餌に飢えたら、一体どうするのだろうか。長年テントウ虫を観察してきたが、一度だけ写真のような光景を目撃した。幼虫が共食いしているのである。テントウ虫に関する本を何冊も読んだが、共食いについて書かれた本はなかったので、この様子を見た時は少し驚いた。その様子を見ていたら、人間の残忍さを改めて思い知らされた。
人類は今、受難の時に差しかかっているのかも知れない。どう乗り越えたらいいのだろうか。
(文責:鴇田 三芳)