第283話 役割

百姓雑話

5月ともなると、写真のように、農場では越冬ブロッコリーの花が満開になる。一般に売られているブロッコリーは「頂花蕾」という部分で、茎の頂上に1個実る。越冬ブロッコリーの場合、頂花蕾の他に葉の付け根から次々に脇芽が出て、小さいブロッコリーがたくさん採れる。あまりにもたくさん脇芽が出るので、そのすべてを収穫するのは大変な作業となる。結局、収穫できなかった蕾(つぼみ)が一気に咲き誇り、子孫を残そうとするブロッコリーの目的が達せられる。

ブロッコリーは菜の花の仲間なので、たくさんのミツバチなどが集まってくる。花から花へせっせと飛び回り、後ろ足に花粉をたっぷり付けている。本当に働き者だ。

ブロッコリーはただで花粉を虫に提供している訳ではない。虫が花から花へ渡り受粉を助けるので、ブロッコリーの近親交配が減る。つまり虫は、植物の花粉や蜜をもらう代償として、植物の遺伝情報を多様化する役割を担っている。このような植物と昆虫の共生関係は、人類の歴史より遙か太古の昔からずーっと続いてきた。

しかし私には、ブロッコリーをそのまま放置できない事情がある。ブロッコリーに種ができ大量に地面に落ちると、次に作付ける野菜に悪影響を及ぼすからである。これを「野菜の雑草化」と言う。ブロッコリーや小松菜などのアブラナ科の野菜は成長が早く、ほとんどの野菜は負けてしまう。

耕すとブロッコリーは急速に分解し、2週間もすると更地になる。このような畑を見ると、「すべての生き物は生態系の中で何らかの役割を担い、連続的な命の営みを日々刻々営んでいる。その営みを自分自身の利益のために断ち切る私は、生態系の中で一体どんな役割を果たしているのか」と自問することがある。

(文責:鴇田 三芳)