第296話 意外な害虫

百姓雑話

今年は、旧盆を前にして、すでに関東以北では秋雨の頃のような天気が続いている。太平洋高気圧が弱く、日本周辺に低気圧や前線が現れやすいためである。東京では1日から16日まで毎日雨が降った。40年ぶりとのこと。去年も8月下旬から同じような天気で、連日の雨によって野菜の作付けが難しく、秋冬野菜が高騰した。このような夏の天候は、偶然続いたとは思えず、たぶん温暖化の影響であろう。この傾向が今後とも続く前提で野菜を栽培しなくてはいけない。

この真夏とは思えない涼しさにつられ、もうすでコオロギが鳴きはじめ、ヒグラシも昼間から「カナカナカナ・・・・・」と心地良い音色を響かせている。赤トンボも夕方になると舞っている。つい4、5年前までは、いずれも8月下旬からの登場であった。とてつもないスピードで気候が激変している。

ところで、農場では害虫のシーズンに入った。例年どおり、ヨトウ虫が発生している。晩夏から中秋にかけて発生する代表的な害虫である。このヨトウ虫とアブラ虫、それにアオ虫は、農家でなくても知っている害虫御三家である。

しかし、実際に農業をしてみると、これらに他にも意外な害虫がいることに気づかされる。とりわけ殺虫剤を使わない私は、これら以外の害虫にも注意を払わなければならない。

いくつか意外な例をあげると、コオロギ、カタツムリ、ダンコ虫、ナメクジがいる。先にあげた害虫御三家は発生初期であれば殺虫剤で簡単に死滅させられるが、これらは相当厄介だ。いずれも、比較的大型で農薬が効きにくいだけでなく、何より夜行性のために居場所がわかりにくいのである。

私は実際、コオロギとダンゴ虫にかなり食害されたことがある。今から10年ほど前、発芽して間もない秋冬ニンジンをコオロギに食べつくされた。作付けしたらすぐに、ほとんどの野菜を防虫ネットで覆っているものの、ネットの裾と地面の隙間から数匹のコオロギが中に入り、夜の内にニンジンの若芽を次々に食べていた。異変に気づき、ヘッドライトをつけて夜間に捕殺したものの、時すでに遅し。ほぼ根こそぎ食べられてしまった。その間わずか1週間。初めての経験であった。

それ以来、害虫が地面を這って侵入すると困る場合は、防虫ネットの裾に必ず土をかけて密閉している。農薬を使わない栽培は、けっこう手間がかかるのである。

去年は8月下旬からの雨続きで害虫の発生が比較的少なく害虫被害がほとんどなかったが、今年はどうなるだろうか。去年のようになるといいのだが。

(文責:鴇田 三芳)