第319話 栄枯盛衰

百姓雑話

栄枯盛衰は世の常、人の常である。

戦後の復興期に隆盛をきわめた百貨店は、大多数の国民が物質的な豊かさを求め大量消費に突入すると、ダイエーやヨーカ堂などのスーパー業界にお客を奪われた。そのスーパー業界も、業界トップのダイエーがバブル崩壊のあおりを喰って倒産した頃から、コンビニや激安チェーン店にお客を奪われ今も売上の減少が続いている。

ところが、その流通業界の雄・コンビニ業界の売上が昨年初めて減少に転じたという。昨日の勝者は今日の敗者。高校生の時に学んだ平家物語そのものである。

栄枯盛衰の例外をあれこれ探ってみたら、4つ思いついた。それは、医療業界、政界、軍隊、そして農業や漁業などの食料を生産する業界である。歴史と現実を見れば、それは歴然としている。

年々増え続ける医療費は今や国家財政を危うくさせている。人に死があり、死への恐怖心が人にある限り、医療業界は衰退しないだろう。

政治は、劣化したことがたびたびあったが、衰退したことはなかった。「人が二人集まれば、そこに政治が生まれる」といった人がいる。まさに鋭く、人間の本質を言い当てている。

軍隊も然り。鎌倉時代から江戸時代までの長きにわたり、武家(=軍隊)が政治も掌握してきた。明治維新後、いったんは軍隊が政治の表舞台から退いたが、ほどなく政治を動かし太平洋戦争へと突入した。そして今から70数年前、軍隊の暴走が国民と国家を奈落の底に陥れ、その教訓から新憲法で戦争の放棄を謳ったものの、朝鮮戦争を機に自衛隊という名称の軍隊が復活した。人に死があり、死への恐怖心が人にある限り、軍隊の衰退はない。さてさて、農業はどうだろうか。これが私にとっては最大の関心事である。

高校生の時、今は亡き母に「どうして農家などに嫁いできたのか」と尋ねたことがある。「農家は休みなく働いても、大して儲からない。だけどね、一生懸命働けば喰いっぱぐれがないと思ってね」と母は答えた。そして、溜息をひとつついた。

(文責:鴇田 三芳)