第338話 薬

百姓雑話

昨年の今頃、寝床に就くと咳と痰が出るようになりました。風邪やインフルエンザの症状ではなかったので、1ヵ月ほど様子を見ていましたが、一向に回復しません。心配で医者に診てもらったところ、「高齢になり免疫力が衰えたのだろう」と告げられ、2週間分の薬を処方されました。健康を維持し増進しようと、食べ物や生活全般に気をつけ、その手の本を何十冊も読んできたものの、やはり老いを押しとどめることは難しいと実感しました。

ところで、人間の病気やその原因、治療方法、免疫をはじめとする防御システム、遺伝子レベルの解析、などなど実に膨大な研究がなされ、素人でもわかる情報があふれています。

ところが、こと野菜となると、人間に比べると、あまりにも情報量が少なく、昔ながらの対処療法的な情報がほとんどです。

人(他の動物も含め)には免疫という防御機能があります。それらは解明され、医療従事者でなくても健康に関心のある人であれば概要は知っているでしょう。同じように、植物にも身を守る防御機能があります。もちろん、植物には血液がないので、人のそれとは異なるシステムでしょうが、確かにあると私は確信しています。例えば、病気にかかった野菜が、人が何もしなくても病気から立ち直ると、再び同じ病気にかかることは、まずありません。この現象から、人でいうところの「獲得免疫」のような機能が植物に備わっていると想像できます。

しかし、農民のほとんどは、植物が本来持っている防御機能を信じ活用することなく、農薬に依存しています。病気や害虫が発生していなくても、「防除」という名目で、定期的に農薬を散布するのが常識です。

そんな現実が一般化した原因の一端は、もちろん農民にあります。「なぜ作物は病気になるのか」などと病気の原因を考え面倒な対策をしなくても、農薬をかければ一応解決してしまうので、農薬が手放せなくなります。

もう一つの原因は製薬会社をはじめとするアグリビジネスでしょう。人間向けの医薬ほどではないまでも、やはり農薬はビッグ・ビジネスです。

このように農薬に懐疑的なことを書いた私でも、医者に薬を処方されると、つい飲んでしまいます。何と弱いことか。

(文責:鴇田 三芳)