第356話 農業衰退の原因(8)

百姓雑話

1970年代後半から、日本の農業は衰退の一途をたどってきた。なぜこうなってしまったのか、農業現場から私なりに考えてきたことを述べてみたい。

「災害立国」と言われるくらい、日本には災害が多い。10年前の福島原発事故は未だに解決のめどがたっていない。「国民病」とも言えるスギ・ヒノキによる花粉症も明らかに人的災害である。加えて、こんなにも自然災害の多い先進国はないだろう。地震と、それにともなう津波、火山噴火にともなう降灰と土石流、台風による暴風雨、洪水、大雪、・・・・・・。

関東地方ひとつとっても、冷害、火山の噴火、大火、地震、戦災と、災害の連続であった。1707年(宝永4年)には富士山が大噴火し、2週間ほど続いた噴火によって関東平野は大量の火山灰に覆われた。1783年(天明3年)には浅間山が大噴火し、火砕流が埼玉県深谷市付近まで流れ下り、火山灰は江戸や銚子でも降った。火山灰の堆積とそれにともなう洪水は農作物に甚大な被害を及ぼし、深刻な飢饉を起こした。いわゆる「天明の大飢饉」である。江戸時代だけでも大飢饉が4回発生し、そのいずれもが自然災害であった。

自然災害に関する情報と研究がたくさん蓄積された現代でも、いずれの自然災害も未だに防ぎきれない。近年は毎年のように台風と洪水による被害がどこかで発生している。

私は、今から30年ほど前、脱サラ就農した。この間、何度も自然災害にあい、甚大な被害だけでも片手に余る。1月中旬の大雪でトンネル栽培していた葉物野菜がほぼ壊滅状態に。5月下旬の降雹でこれまま露地野菜が全滅した。この時の降雹は凄まじい量で、5cm以上も積もった。車はボコボコにへこみ、近所の農家のハウスは甚大な被害を受けた。台風の直撃を受け、ビニールハウスが飛ばされたこともある。秋の長雨で農地が沼のようになり根菜類がほとんど腐ってしまったことも2度あった。これらが私にとっての自然災害のトップ5である。

そのたびに、「もう農業はやめよう」と真剣に考えた。つい最近も、写真のように遅霜でジャガ芋に被害が出たが、ジャガ芋の遅霜被害は想定内で、とりたてて自然災害と言えるほどではない。ジャガ芋は必要最小限しか栽培していないので、被害額も数万円で済む。

私に限らず、自然災害などで甚大の被害を受けた農民は大いに落胆し、人によっては絶望し、離農しようと思うだろう。そもそも農業はろくに儲からないのだから、他の仕事に転職したくなるのは、人の性であり、生き抜く術でもある。

昭和20年代後半から始まった高度経済成長が渡りに船となり、たくさんの農民が離農し、第二次産業などのサラリーマンとなっていった。そして、日本の農業は衰退の一途を辿ったのである。

(文責:鴇田 三芳)