前話では、日本で有機農業が拡大しにくい理由として、人材不足を指摘しました。今話では、他に4つの理由をあげます。
四方を海に囲まれた日本は、温暖で雨量も多く生物に大きなダメージを与えるような乾期がないため、病気や害虫が発生しやすく雑草も元気に繁茂します。このような環境下での無農薬栽培は相当な技術が要求されます。これが2つ目の理由です。
3つ目の理由は、無農薬栽培の技術をマスターしたところで、その苦労が報われるほどの所得が得られにくい現実です。ほとんどの消費者は、無農薬栽培の苦労と価値にみあった値段を受け入れません。
私の実家はキュウリと米麦の慣行栽培(農薬と化学肥料を使用する栽培方法)を行ない県内有数の高収益農家でした。家族3人半の労働力で年間1200万円くらい売り上げ、一人当たりの所得は250万円ほどでした。無農薬栽培を続けてきた私も今の年間所得は同じくらいです。これらの経験と知り合いの農家などの情報から、慣行栽培と無農薬栽培での所得格差は今でもほとんどないと思われます。では、どちらのほうが肉体的にも精神的にも大変かと言えば、ほとんどの農民にとっては無農薬栽培のほうです。人は安きに流れ安いもの。あえて苦労をしてまで無農薬栽培にチャレンジする人がどれほどいるでしょうか。
4つ目の理由は日本が世界トップクラスの長寿国ということです。ほとんどの消費者が無農薬栽培の農産物にそれなりの対価を払ってもいいと思わないのは、この長寿が大きく影響していると私は思っています。農薬まみれの農産物と危険な添加物がつめこまれた加工食品と甘い糖類(砂糖や果糖ブドウ糖など)がたっぷり混ぜられた飲料や菓子を日常的に食べていても長寿です。
余談になりましが、日本人の長寿は優れた医療制度と体制、比較的に温暖な気候、入浴による免疫力アップ、衛生的で快適な生活環境も大きく影響していると思われます。
そして最後の理由は日本人の実質所得がどんどん減っていることです。この現象は今後も長く続くと予想され、少しでも生活費をきりつめざるをえないでしょう。
(文責:鴇田 三芳)