第379話 日本で有機農業は拡大するのか(1)

百姓雑話

1月下旬、千葉県印旛農業事務所から「有機農業の取り組み面積等実態調査」というアンケートが届きました。県が把握している有機農業実践者に対して送られたものと思われます。

国は、2021年5月に策定した「みどりの食料システム戦略」の中で、2050年までに農地の25%(約100万ヘクタール)を有機農業に転換する目標を掲げています。この目標に向けた一環として、上記のアンケート調査が全国規模で行なわれたのでしょう。

私は、アンケート調査に応じたものの、国が掲げる25%という目標は達成できないと思っています。

日本では、昔から有機農業が当たり前で、化学農薬や化学肥料が普及し始めたのは前世紀中ごろからです。そして、またたく間に日本中を席巻しました。

しかし、人体と環境への農薬汚染が深刻化し、各地で死者がでました。私の実家や近所でも農薬被害者がでました。実家の隣のご主人は、有機リン系農薬により生死をさまよいました。口から泡を吹き、目を白黒して数日もがき苦しみました。私は、小学入学の直前でしたが、それを横でじっと見つめていました。今でもその光景が目に焼き付いています。

また、私の長兄は、米麦と施設野菜を栽培する専業農家でしたが、還暦前に肺線維症でなくなりました。見舞った際、人工呼吸器をつけていても苦しそうに喘(あえ)ぐ兄の顔もやはり目に焼き付いています。たぶん兄も、農薬の影響が大きかったのでしょう。

あまりにも苛烈な農薬汚染に加え、工場や車などからの排水や排煙などによる公害も各地で発生し、隅に追いやられていた有機農業が改めて見直されました。それを実践し始めたのが、今の90代から70代の世代です。

上記の国の目標に話しを戻します。達成できないと私が思う理由を2、3挙げます。

まず第一に、日本で有機農業を実践してきた世代の大半が高齢化してしまったことです。化学農薬と化学肥料にどっぷり漬かってきた人が有機農業に転換するには強烈なモーチベーションが必要ですが、そんなモーチベーションを今の日本社会から発念することはかなり難しいでしょう。

かといって、新規就農者にそれを期待しようにも、教育・訓練の体制が未だに整っていません。私のところに千葉県農業大学校など3校の農学部の学生たち8名が研修に来られましたが、学校で有機農業を習った人は誰一人いませんでした。そもそも有機農業のカリキュラムがないのだそうです。これが教育界の実態です。

続きは次回に。

(文責:鴇田 三芳)