第391話 挫折の3大原因

百姓雑話

就職の季節となった。半世紀ちかく過ぎた今でも、就職した頃の心境や日々を私は鮮明におぼえている。

人生の限界が見えてきた近年、あの頃をふりかえり、「違う道を選択していたら一体どんな人生になっていただろうか」とたびたび思うようになった。たぶん、今まで何度も挫折したからだろう。私は、40歳で脱サラ就農したが、それ以前に三度も挫折をあじわい、ライフワークのつもりで就農してからも三度挫折しそうな時期があった。幸い私は、妻や近所の農家、研修生などに支えられ挫折せず今までやってこれたが、この間10人ほどの挫折を見聞きした。

そんな見聞と私の経験から、非農家出身で新規就農した人に焦点を合わせ、挫折の4大原因を述べよう。その4つとは、知識不足、資金の枯渇、不適切な健康管理、そして人間関係。あえて5つ目をあげると自然災害があるが、この原因は不可抗力の場合もあるので、ここでは触れない。

まず知識。生業としての農業を営むには理系の基礎知識が不可欠である。例えば、中学校の理科で習う比熱や比重、イオンや化学反応、水の特性、光合成や呼吸など。さらに、高校で習う生物や化学、物理や気象の知識もあったほうがいい。これらの知識が不足すると、栽培技術をなかなかマスターできない。

資金の枯渇もよくある原因である。少ない経験にくわえ、知識が不足していたり、思考力や行動力がおぼつかなかったり、記録をきちんと取らない人はなかなか満足な所得が得られず、用意した資金があっという間に枯渇してしまう。

もとより農業は自然相手の職業。植物にとって厳しいだけではなく、農民にも厳しい。まさに宮沢賢治の「雨ニモマケズ・・・・・・」の状況で働かなければならない。健康維持についての知識をたずさえ日頃から実行しなければ、いつか体を壊す。「深酒や喫煙を常習とする人は新規就農しないほうがいい」とさえ私は思っている。今から5年ほど前、定年退職した方が私のところで半年研修し、農地を借りて独立した。NPO法人も設立し積年の願望を実現した。しかし数年後、脳梗塞で体が不自由になり、営農を断念せざるをえなくなってしまった。彼は、酒がとても好きで、晩酌が習慣化していた。

最後の人間関係で言えば、ほとんどが就農地での近所付き合いの失敗である。この点は別に機会に述べよう。

(文責:鴇田 三芳)